第1章 人の縁
朝になっても返事は来ていない
そりゃそうか
まぁ別の仕事をまた探そう
朝ごはんを食べ化粧をして
バイクに跨り会社へ向かう途中
家の近くで見覚えのある人を見た
流石に一瞬すぎて特徴は分からなかった
でもあのシルエットどこかで見た
会社に着くなり豚どもがこぞって鳴く
どいつもこいつも
「コーヒー」
呪文みたいに
「コーヒー」
「揃いも揃って豚が」
心で思っているはずの言葉が
口から出ている事に気づいた
小声だったので周りには聞こえていないが
あの頃のピュアさが無くなった事に失望した
トレーにコーヒーを乗せ
「どうぞ」なんて作り笑いをして
何ヶ所にも配る
私以外にも出来るであろう仕事
この仕事に価値を見いだせない
まだ返事は来ないけど部長に転職の旨を一応伝える
部長は名前の通り仏頂面
神社の跡取り息子だった筈なのに
親に反抗して家出して
この仕事について28年らしい
まるで私の将来を見ているようで
悲しくなった
「まぁお前が決めたら仕方ないな」
「そういう事なのですみませんが1ヶ月後に辞めさせて頂きます」
「送別会と歓迎会をやろう」
「ありがとうございます」
席に戻りいつもの事務作業に戻った