第2章 依頼の時間
加齢臭漂う個室で、床を汚して転がっている臭い菌の親玉に足を乗せる。思いきり踏みつけても反応がない限り依頼は完遂、かな。
後はこんなところからおさらば。
「くっさ」
そろそろ梅雨明けの時期。それでもまだ菌が元気に増殖して私としては最悪だ。
今にもおっさんと鉄の臭いが化学反応起こして、私の鼻にバイオテロしてきそう。
手早く身支度をして、私がいた痕跡を消していく。
「ああ、今日もかな」
この後待っているであろうお小言にため息しか出てこない。
お小言の主は私のスケジュールを把握しているのか、私が家に着く頃合いに必ず電話をかけてくる。
そしてお小言という名の説教をして私との関係を保とうとしているのだ。
あの人は隠そうとしているようだけど、バレバレ。この数年で培われた私の察しの良さを舐めないでほしい。
ただあの人は、今の社会の板挟みになっている被害者だ。そこが少し気掛かり。
本来ならあの人は、私のような者を許しておけない立場だけど。捕まえたり更生させようとはしない。
それどころか私のクライアントとなっている。
「……今日は素直に話を聞こうかな」
同情にも似た感情を手土産に、帰路につく。
毎日誰かを潰して。
毎日お小言を聞いて。
毎日毎日、繰り返し。
ああ、いい加減何か良いこと起きないかな。毎日飽きない、ころころ変わる何か……