第3章 訓練の時間
校舎に戻っていく烏間先生と入れ替わる形で、誰かが近づいてきた。
縦にも横にも大柄な男性は、烏間先生の同僚、鷹岡……先生。烏間先生の補佐として、明日からの体育の授業はこの人が担当するらしい。
「食え食え! 俺の財布を食うつもりで遠慮なくな!」
「えーと、鷹岡先生。よくこんなに甘い物ブランド知ってますね」
「ぶっちゃけラブなんだ。砂糖がよ」
惜し気もなくケーキやらタルトやらを振る舞う鷹岡先生。殺せんせーにまで振る舞って……。
「同僚なのに烏間先生とずいぶん違うスね。なんか近所の父ちゃんみたいですよ」
「いいじゃねーか、父ちゃんで」
あっという間に生徒たちの(ついでに殺せんせーの)心を掴んだ鷹岡先生は、肩を組んで和気あいあいとしている。
しっかり自分自身も甘い物を頬張って……ちゃっかりしてるな。
けれど。
私はどうもこの鷹岡先生が苦手だ。本人は「物で釣っているわけではない」らしいが。どうも嘘臭い。
なんとなくだが、この人には関わってはいけない気がする。
「あれ、柊君帰っちゃうの?」
「ああ、渚君。用事あるの忘れてたんだ」
じゃあね。
逃げるように渚君に背を向けて。
甘味の匂いから抜け出した。