第8章 【桜色】パニック &ぱにっくシンドローム
~Sideハイリ~
『周りがパニックに陥っている時こそ
お前は冷静でいなければならない。』
脳裏をよぎる声は消太くんのものだ。
お陰で大抵の場面では動じない
野外だって、どこでだって寝ちゃうような
肝の据わった女子高生が出来上がったのだ。
ある、1つの条件を除いては。
「いてぇ、いてぇ!!」
「押すなって!」
「ちょっと待って倒れる!」
「押ーすなって!!」
飛び交う怒声、悲鳴。
突如舞い降りた緊急事態に
迅速な行動がパニックを呼ぶ。
しかし
私の頭はそれとは別の理由でパニックに陥っていた。
「轟くん…あの
これは流石に……。」
「お前細ぇし、巻き込まれて倒れたら一発だぞ?
それに――……」
がっちりと肩と腰に巻かれた腕
押し当てられた固い胸
轟くんの腕の中にすっぽりと収められているこの状況
さっきまでの、ず太い神経はどこへ…
平静を保っていた心が一転、まさにパニックだ。
(どうせなら異性への免疫も考慮して
育ててくれればよかったものをっ!)
フワフワする頭は
消太くんに対して悪態をついてしまう程。
しかも、こう言う時に限って轟くんは表情を見せる。
「……――俺的には役得だ。
やっとお前に触れる。」
目を細めて口端を上げ、余裕綽々で笑う。
意地の悪い笑顔だ。
この人絶対に楽しんでる…。
慌てる生徒でごった返した非常口前。
見知った顔も当然いる。
「どわーーー
しまったー!!」
「緑谷くーーーん!!!」
(飯田くんだぁ…。)
少し前方いる彼を見つけるのは割と早かった。
叫びからして、あの緑谷くんも近くに居るのだろう。
ほぼ同時に「デクくん!!」と上がった女の子の声は
多分、お茶子ちゃんの声だ。
これだけ互いにもみくちゃにされれば
制服だって乱れるだろう。
現に背の高い飯田くんだってメガネがズレてしまっている。
だからと言って
轟くんに直接乱されてもかまわない…
と言う訳ではないのだ。