第8章 【桜色】パニック &ぱにっくシンドローム
~Sideハイリ~
――ウウ~~ッッ!!!
耳をつんざくアラームは
今まさに最初の一口を食べようとした瞬間
鳴り響いた。
《セキュリティ3が突破されました
生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難して下さい》
無機質な音声とけたたましい警笛に
室内は一変してパニックに陥る。
程度の差こそあれ、私たちも例外ではなかった。
……たぶん。
「セキュリティ3?」
焦りは外見に表れていないけれど、戸惑っていはいるのだろう
お蕎麦を掴んだままの箸を止め、隣の彼が視線を天井に上げた。
視線を向けた場所は私だってさほど変わらない。
「確か…
校舎内に誰かが侵入したってことだったと思う。」
毎日とは言わないケド伊達に10年この学校に通ってない。
この学校の事なら上級生より詳しいと思う。
それでも「確か」と前置きをしたくなるのは
これが稀なこと過ぎてイマイチ確証が持てなかったからだ。
「まだ半分も食ってねぇが
出た方が良いのか…?」
「そだね、屋外へ…って言ってたし。」
天井を指した指を食堂の非常口へと向ける。
決して焦ってない訳ではない。
ただ、淡々飄々とした轟くんと
ヒーロー界に座する者としての心構えを、延々昏々と説かれ続けて育った私とでは
この緊急事態に対する反応も緩慢とせざるを得ないだけ。
轟くんは、押し寄せる波にため息をつき
私の手を取って立ち上がった。
「離れんなよ?」
「ん、割と平気。」
緊急事態こそ冷静でいなければならない
そんな当たり前のことを言われ続けてもう10年
最高峰であるこの学校に入学して早々に
この言葉が生きる状況に出くわすなんて…
(流石雄英…って言うのもおかしな話だよね。)
冷静に考えたからこその不可解。
こんなセキュリティ万全の施設に侵入者が現れたのだ。
引かれる手、非常口とは反対側に目を移し
逃げ遅れている人は居ないかざっと見る。
迅速な対応と言うべきか
そんな生徒は流石に居ないようだった。