第8章 【桜色】パニック &ぱにっくシンドローム
~Sideハイリ~
好きな人の好みを知ることが出来るというのは
想像していたよりずっと楽しい。
自分の食事なんかそっちのけで見ていると
フッと吹きだして目だけが私に寄せられた。
「付き合ってる事隠す気あんのか?
あんま見てっとバレちまうぞ?」
「だいじょぶ。
たまたま座った席の隣にイケメンが居たもんで
見惚れてるってことにすれば問題ないよ。
それに……一番バレたくない人にはたぶんもうバレてる。」
「前半は意味がわからねぇが、後半は同意だ。
まさか、例の『消太くん』が相澤先生だったとはな。」
本当に「まさか」と思っているのだろうか?
そうは見えない彼の表情に心の中でツッコミを入れるのも、そろそろ疲れて来た。
私の語彙力にも限界がある。
この人は身体を鍛える前に
表情筋をどうにかした方が良いのではないだろうか?
嘆いていた事はそれだけではなかった。
(出来れば担任のフルネーム位、把握していて欲しかった。)
今更そんなこと言っても
八つ当たり以外の何物でも無いのだけれど。
(まぁ、把握していても避けられなかっただろうしね。)
思えば雄英教師陣についての愚痴を誰かに話す…
なんてこと自体初めてだ。
なんせ事情を知る人間なんて他に居なかったんだから。
そう思うと、この人は私にとってやっぱり特別なのだと実感してしまう。
ふにゃりと綻んだ口元を慌てて両手で隠した。
これからほぼ毎日見る光景
自分の日常に当たり前のようにいてくれる人
そんな現状に何より心が落ち着いているのがわかる。
ホッと息をつき、箸を取る。
やっとご飯だ、そう思った瞬間
たった今思い描いたばかりの日常を撃ち破るかのように
その警報は鳴り響いた。