第2章 【桜色】先天性世話焼き
~Sideハイリ~
目が合った途端胸が軋むようだった。
散々迷惑をかけた。
見て見ぬ振りならいくらでもできるのに。
こんなに優しい人が、こんな目をしてるなんて。
『……―――今、辛いの?』
なんとかしなきゃ、その一心で口をついて出た疑問を
彼は理解していないようだった。
「…………どういう意味だ?」
当然の反応だ、脈絡が無さ過ぎる。
その上にかなり失礼なことを口走ってしまった。
チラリと見上げた彼の表情に怒りはないものの、凄く気まずい。
「ごめんなさい、寝ぼけてるみたい…。」
「そうか。歩けそうか?」
頭に乗せられた手はさっきと違ってとても温かいのに
こんなに優しい人なのに…。
ぼんやりと考えながらポケットに手を入れて、中のものを一つ取りだした。
「これ、良かったら食べて。
もう一人で大丈夫だから、その…ホントごめんなさいっ!」
彼の手にそれを無理やり握らせ、そそくさと走り去る。
後ろから声が追い掛けて来たけれど、なんかもう色々とあり過ぎて整理が追い付かない。
一気に駆け抜ければ
すぐに今日から通う雄英高校のゲートが見えてきた。
(そう言えば名前も聞いてないな。)
とぼとぼ潜ったゲート。
睡眠不足に朝から続く体力の浪費、ついでにメガネも無くしてしまった。
さっき仮眠を取ったばかりだと言うのに、私の身体はまた睡眠を欲している。
そんな足らない頭でもしっかりとさっきの人の事を考えていた。
(あれだけ綺麗な人だし、たぶんすぐ噂で聞くようになるよね? そしたらもう一度お詫びに行こう。)
うん。と一人頷き欠伸を噛み殺す。
今日はもう限界みたいだ。
保健室に行って寝たいところだけど、
無駄に走り過ぎた。
駄目だとわかっていてもこればかりは昔からどうにもならない。
倒れるよりはいくらかマシだろう、そう思って視線を巡らす。
ゲートから少し逸れたところにある桜の木があったので、そこに腰を降ろすことにした。
(少しだけ寝よう……。)
空は快晴。
入学日和だ。
ぽかぽか陽気も手伝って
私はあっさりと夢の中へと落ちていった。