第2章 【桜色】先天性世話焼き
~Side轟~
具合でも悪いのかと思っていたが
どうやら違うらしい。
立ったまま眠る程の睡眠不足なんざ想像つかねぇが、とりあえずは大丈夫そうだと息をつく。
目の前の女生徒は
ベンチの背もたれでこれ以上下がりようもないのに
それでもその背もたれに縋って身を離した。
「なら良い。
じゃ、行くぞ?」
立ち上がって手を差し出すと
メガネの奥の丸い目を更に丸くして俺を見上げてくる。
なんだか仔犬みてぇだ。
ゆるくウェーブのかかった亜麻色の髪と丸い瞳、首を傾げている姿も相まって余計にそう思えた。
特にこのとぼけた表情…。
だがとぼけていたのは表情だけじゃなかった。
「行くってどこに?」
傾げた頭はそのままに、この問いだ。
この状況で学校以外のどこがあるってんだ?
ついたため息は呆れから来たもんだった。
「学校だ、行かねぇのか?」
「そっか、そうだよね…。」
何で遠慮してんのかわからねぇが
差し出した手に恐る恐る置かれたのは細い指先のみだ。
ここまできて
今更遠慮する必要がどこにあるのかと首を傾げながら握り直したその手を軽く引く。
瞬間、思いの外勢いよくその身体が俺の方に倒れ込んできた。
(…予想以上に軽かった。)
「わっ!」
短い悲鳴と同時にカシャンと軽い音がなる。
視線を落とすと少し離れたところにメガネが落ちていた。
「あたた……ごめんなさい。」
「悪い。加減間違えた。」
俺の肩にぶつけたのか額に手を当てながら上げた顔に、先程まであったメガネは見当たらない。
(やはりコイツのか…。)
そう思って顔を覗きこんだ時だった
「あはは、大丈夫。
というか度々ごめんなさー―……」
上げられた照れくさそうな笑顔が目が合った途端に固まり、驚いた表情へと変わっていく
口にしかけていた詫びは不自然な言葉でくくられた。
「……―――今、辛いの?」