第7章 【桜色】UA チームカンファレンス
~Sideハイリ~
あんなに遠く、重く見えていたA組のドアは
いとも簡単に開き、音も無く閉まった。
轟くんが何も言わなかったら
あのドアから出ることは叶わなかっただろう。
皆が教室へ駆け込む時間
私はその波に逆らって人気のない廊下を進む。
目的のドアの前に立つと
ポケットの中でスマホの着信を知らせる振動が伝わってきた。
消太くんだろうか…?
有無を言わさぬ目だった。
もう考える時間を貰えそうにない。
(それに…)
サラリと撫でた首の付け根
左の鎖骨の僅かに上の場所。
朝念入りに塗って来たはずのファンデーションは
殆ど指についていない。
『俺は知っている。』
はっきりとそう言われた。
相手が誰かまでバレているんだろうか…。
悩みは尽きそうにない。
取りだしたスマホには
LINEが1件
【昼休み話せるか?】
轟くんだった。
大方心配してくれているんだろう
思えば初日から迷惑かけてばっかりだ。
【もちろん! お昼おごるよ~(*´ω`)】
文面で明るく振る舞って見せたとしても
彼には筒抜けだろう。
それでも装わずにはいられなかった。
「せんせぇ…お腹痛いです。」
目的のドアを開けながらの精一杯の演技は一瞬で見抜かれた。
その部屋の主は
私が来ることなんて
初めからわかっていたかのようだ。
「おやまぁ下手くそな仮病だね。
こっちへお座り、お菓子あげるよ。」
座れと言いながらベッドへと招く。
本当にここの人たちには何も隠せないと痛感してしまう。
促されるままベッドへ腰かけネクタイを外す
窮屈なのは好きじゃない。
シャツのボタンを二つ外し、寝そべりながらリカバリーガールへと笑って見せた。
「ねぇ、お菓子は?」
「起きたらあげるよ。少しお休み。」
「ん…楽しみにしてる。
昼休み前に起こしてね。」
「午前の授業、丸々サボる気かい?
全くとんだ問題児だよ。」
ブツブツ文句を言いながらも、
カーテンはいつもより緩やかに閉められた。
何かあった位はバレバレなのだろう。
何があったかまでバレているのかも。
なのに
何も聞かずに寝床を提供してくれた事実が
今はただ嬉しくて
不安を握りしめたまま、夢の中へ落ちていった。