第7章 【桜色】UA チームカンファレンス
相澤は自負していた。
本人よりも自分の方がハイリを理解していると。
だからこそ、大人たちの説得ではハイリの心は動かない。
長らく避けられていた事実から
そう結論付けていた。
心優しいハイリがこうまで言って差し伸べられた友の手を取らない筈が無い。
まずはハイリを自分の手元に置く。
それが最優先事項。
事は、思惑通りにほぼ運んだ。
想定外だったのは
口火を切ったのが轟でなかった事だけ…。
隣に立つ少女の肩が微かに震えている。
諭い子だ、そろそろ自分の筋書きに気付いた頃だろう。
だがもう遅い。
ゆらゆら揺れる天秤のような少女の心
あとは一つ小石をこちら側に投じるだけ。
「このクラスへ来い。」
この場で、そう言うだけでいい。
男は、もう一度ほくそ笑み
口を開く
「ハイリ…お前は――」
しかし、ここに来て初めて
静観を貫いていた少年が手を上げた。
「先生。」
開きかけた口はそのままに、
相澤は声の方向を目だけで追った。
右から二列目、一番後ろの席。
クラスで、いや
この学校内でハイリの事情を
唯一把握しているであろう生徒。
轟 焦凍
相澤は腹の底から込み上げる笑いを抑え
目だけで続きを促した。
「HRの時間、無くなりそうですけど
いいんですか?」
あくまで他人の振りを通すのはハイリの意志だろう。
先程まで静かさを帯びていた色味の違う双眼は
今や鋭く細められていた。
轟にとってハイリのヒーロー科編入は
決して嫌な事ではなかった。
むしろ逆
付き合い始めたばかりのこの時期に
出来るだけ側に居たいと思うのは自然な事だ。
それでも、
優先すべきはハイリの意志。
事情を把握しているからこそ
気付けた担任の思惑。
知らない振りを通してやりたかったが
もう見てられなかった。
自分の発言に反応したのは、なにも担任だけではない
当たり前だ
入学してから今までほぼと言って良い、
誰ともまともに口をきいた記憶が無い。
この行動がいかに奇異なものかは轟本人が
一番理解していた。
担任と目が合うと
言葉を遮られたにも拘らず
僅かに期待の色が垣間見えた気がした。
その瞬間
ハイリとの関係はもうバレているのだろう
少年は直感した。