第7章 【桜色】UA チームカンファレンス
相澤はほくそ笑んだ。
目を伏せて両のこぶしを握りしめた
妹同然の少女。
自分の紹介に対して
戸惑いの色を隠せない生徒たち。
その中で唯一
静かな視線を自分に向ける少年。
賑やかなクラスもこの時ばかりは
水を打ったかのように静かだった。
あまりに予想通り過ぎて
笑わずにはいられない。
だが、口火を切ったのは予想とは別の少年だった。
「先生!」
ガタリと音をたてて挙手もせずに立ち上がる
そこには先程までの陽気な顔はなく
理解できない不快感が著明に表れていた。
その少年――上鳴は
担任の反応を窺うことなく言葉を続けた。
「んな事言っちゃったら
逆に仲良くなり辛いんじゃないスかね?」
敵意なく、純粋な疑問
単純思考の彼だからこそ嫌味なく放てる言葉だった。
そして、この言葉が口籠っていた皆の背を押した。
「そうね。
私たちは既にハイリちゃんとお友達なのよ、先生。」
「“個性”云々で友達決める奴なんて
今時いねーし?」
「朋友友進。信頼無くして友好関係などあり得ん。」
「そもそも! 雄英の教師以前に
教育者としてあるまじき発言かと!!」
蛙吹、瀬呂、常闇、飯田
次第にクラス中の各々が思い思いの言葉を口にし始め
聞き取ることすら叶わなくなっていく。
ザワリ、ザワリと躁の音が広まる教室内では
その中心であるはずのハイリが最も戸惑っていた。
皆の言葉が嬉しかった。
幼い頃からヒーローに囲まれて育った少女にとって
自分の“個性”は世の為のもの。
なぜ自分がこんな特異な環境に置かれているのか
大人たちが自分自身ではなく“何”を守ろうとしているのか、言われずとも肌で感じていたからだ。
今のヒーロー界で自分の“個性”がどう評価されているか
知っているからこそ嬉しかった。
(こんな人たちの為なら
自分の意思なんて捨てても惜しくない。)
もはやそれは自分の意思であるかのように誘導された心理。
気付いた時には遅かった。
弾かれたように瞳を上げ
隣に立つ、幼い頃から見上げ続けて来た横顔を見る。
兄同然の男の口端が僅かに上がったのを見て
男の思惑を悟った。
退路を断たれてしまった…と。