第48章 【深緑色】症状(中期)
食堂に入るなり
この3人組を見つけていつもの群れから一人出た。
足向けた先で察したんだろう
いつもギャーギャーうるせー奴らが
何も言いやしなかった。
恐らくは
俺がガチでキレてっからだ。
「えーん爆豪くんがこわぁいっ!
ハイリちゃぁぁんっっ!」
「爆豪くんっハウスッ!」
「あ"? ハイリテメッ今なんつった!?」
「爆豪…少し静かに食えねぇのか?」
「テメェは少しなんか言えやッ
舐めプ野郎ッッ!!」
さも当たり前のように
轟の前に座る普通科のモブ女。
名前は栗井だったか…
太ぇ神経だ
俺にあれだけの事しておきながら
何事もなかったかのように話しやがる。
(今度は弱者アピールか、ウゼェな…。)
そんなにハイリが好きなら
ハイリの前に座りゃいいだろうが
見え空いてんだよテメェの魂胆なんざッ。
クソ真面目に女を庇うハイリも
すっ呆けた面でこの組み合わせを受け入れてる轟も
この女の本性に気付いちゃいねぇ
羊の群れに羊の皮を被った狼が混ざってるみてぇなモンだ。
いつ牙を剥いて噛みついてくるんだかわかりゃしねぇ…。
(お陰で気苦労が絶えねぇだろうがックソッ!)
焼く必要のねぇ世話を焼いてる自分に腹が立つ。
男二人
女二人
決して和気あいあいとは言えねぇテーブル上で
視線はクロスに交差した。
キーキーうるせー女二人の声を尻目に
寄せられた色違いの視線は静かなモンだ。
侮蔑でもねぇ敵意でもねぇ
ただ観察されているかのような視線。
何にも知らねぇで余裕かまして
あまつさえハイリとこの女の仲を取り持った野郎。
拍子抜けするほどに角が取れた分
ボケ具合が倍、3倍と増してやがる。
だがこの異な状況に
確信は持てた。
(間違いねぇ…“個性”だ。)
隣から注がれる高圧的な笑みは
どう見たって好感の持てるモンじゃねぇ
空気読めねぇ女とすっ呆けた野郎だが
これに気付かねぇほど馬鹿じゃねぇだろう。
幻影か、錯覚か
このバカップルは
まんまとこの狼女の術中にハマっちまってるってことになる。
そこまで考えて
俺は手を額に当てた。
(………あーさっきの取り消しだ)
やっぱこいつ等、馬鹿にゃ違いねぇ。