第2章 【桜色】先天性世話焼き
~Sideハイリ~
「――おい、大丈夫か?」
誰かに呼びかけられているような気がして目を薄く開くと、見たこともない綺麗な人が居た。
サラサラの紅白の髪にオッドアイ、何だか王子様のような人だ。
つまりこれは…
(………ん…夢だ。)
そう決めつけて再び微睡へと落ちようと目を閉じる。
するとすぐに右頬にペチと僅かな痛みが走った。
「……夢なのに痛いよ……。」
「痛ぇなら夢じゃねぇだろ。」
うん、確かにそうかもしれない。
返って来た言葉を理解しぼんやりと目を開くと、確かに夢の中で見たのと同じ顔が覗きこんでいた。
「………んん?」
辺りを見渡せば目的地であるはずの駅。
確かに電車に乗っていたはずなのに、ちゃんと降りている。
とうとう寝ながら移動する術を身に着けてしまった。
寝ぼけたままそんな自分に感心している私の頬にヒヤリと何かが触れた。
「大丈夫か?」
「大丈夫です」って言いたくても声が出ない。
だってそれは彼の手だったのだから。
(えぇ!?)
手の甲で私の頬を撫で首を傾げる姿に
恥ずかしさからカッと身体が熱を持つ。
一気に目が覚めた私は後ずさろうとして
初めてホームのベンチに座らされていた事に気付いた。
そして理解した。
恐らくこの人がここで介抱してくれたのだろう事を。
(やってしまった…。)
やっぱり寝ながら移動なんか出来る訳がないんだ。
たまらず漏れた溜め息と共に頭を下げる。
「大丈夫です…
その…睡眠不足で寝てしまっただけです…。」
目の前に屈んでいるその男子生徒が身に纏っているのは、自分と同じ雄英の制服だ。
恐らく降車駅を察して
寝ていた私を引きずり降ろしてくれたのだろう。
そう思うと堪らなく切ない気持ちになった。