第47章 【深緑色】デイドリーム
言葉に気圧されたか
緑谷と飯田の返事は朧気で
嬉しそうに微笑んだハイリの表情が余計大人びて見えた。
フッと音の途絶えた部屋の中
日差しのヴェールが柔らかな線を描く。
琥珀色に輝いた髪がキラと色を変えて
どこか神聖なものを見ている気分だ。
音が遠ざかっていく
この部屋だけ俗世から切り離されていくような
そんな感覚だ。
天使の巻き髪の様な髪
触れれば軽くふわりと揺れる
いつもの感触だ
確かにハイリだ
だが――
(変わった…。)
また変わった。
だから二人も圧倒されてんだ。
向けられた笑みは母親を思わせる
そこはかとない頼もしさを醸し出していて
先を越されちまったか。
最初に思ったのはそれだった。
「見つけたんだな…。」
俺の言葉に目じりを下げる
柔らかなラインが物語っていた。
見つけたんだろう
なりてェ自分を。
ゆたりと瞬いて
YESを象る唇が弧を描く
「まだまだ片鱗だけどね。」
これだけ自信に満ち溢れたハイリを
見るのは始めてだ。
可愛いと思う
綺麗だと思う
だがなにより
格好いいと思った。
(ったく、どこが片鱗だ…。)
夢を見る事すら出来ない女だった。
敷かれたレールから逃げ出そうと
必死でもがいてる女だった。
強要され無理矢理歩き始めていた。
それでも自分で選んだのだと
ゆっくりと歩き始めていた。
何がきっかけかはさっぱりわからねぇが
この表情。
どうやら本気で未来を見据え始めたらしい。
「そりゃ、よかったな…。」
「ん、ありがと。」
一歩を大きく踏み出した
歩いちゃいられねぇと走り始めた。
護りてぇと思った存在は
そこはかとなく強い芯を持った女。
羨望に近い思いだ
放っときゃどっか行っちまいそうな…
安堵8割
焦躁2割
頬に触れた手で唇を撫でる。
二日月を象ったそれは
見惚れんばかりの微笑みだった。