第47章 【深緑色】デイドリーム
笑い声が徐々に鎮まっていく中で
林檎を剥きながら3人の顔を順番に見てた。
落ち着き始めた二人の焦凍を見る目は
なんだか微笑ましいものでも見てるみたいで
(何かやらかしたのね。)
私の中では
そんな感じで落ち着いてた。
シャリシャリと瑞々しい音が広がっていく
甘酸っぱい香りも広がっていく。
いっそ市松模様でも作ってあげようかと
フッと視線を上げた時だった。
「痛っ…」
集中力が散漫した私は
自分で自分の指を切ってしまったの。
声を上げた割に
そんなに深い傷じゃなかった。
親指の腹に薄らと出来た筋
グッと押すと赤い血玉がぷつりと滲む
その程度。
なのに焦凍の青ざめようと言ったらなくて…
「ハイリ…もう林檎要らねぇ…。」
「あー…だいじょぶだいじょぶ
大した事ないから!」
痛いだなんて言わなきゃよかった。
ナイフも林檎も取り上げられて
何故か抱きしめられている。
「わりィ」と小声で一言
焦凍が悪いわけでもないのに凄い落ち込みようで
だけどこの会話で
なんとなく察してしまったんだ。
「やっぱ俺が関わると手がダメになる感じに…
なってる…。」
「「ぶはッッ!!」」
ボソリと呟かれた焦凍の一言が
せっかく収まってた二人の笑いに火をつけた。
一人責任を感じてる焦凍くんは
またもや蚊帳の外だ。
いや、むしろ中心かな?
蚊帳のど真ん中。
そして彼がとうとう
そのパワーワードを口にした。
「緑谷といい、飯田といい…オマエまで
やっぱ俺はハンドクラッシャーなのか…?」
「………焦凍くん………」
冷や汗だらけで自分の右手を見る彼の姿に
呆然としたまま全てを理解した。
これに二人はツボってたのかって。
そろそろ二人が窒息しちゃうよ
免疫ない彼らにこれは中々なギャップだっただろう。
「ね? 楠梨さんッ、ね?」
「轟くんの、ッ意外な一面を見たッ…ッな。」
「いや、焦凍はわりと…いつもこんな感じ。」
そう、こんな感じ。
クールでクレバーでカッコイイ。
でも優しくてあったかくて
時々とんでもなく恍けたことを言ったりして
皆が知らないだけで
そんな人なんだ。
(良かった…。)
やっぱ体育祭から変わってる。
ちゃんと、変わってる。
そう思ったら
私も変わんなきゃって
やっぱり思うよね。