第6章 【桜色】物言えぬ処方箋
~Side爆豪~
コイツ…何者だ?
敗北感なら昨日の戦闘訓練で充分に味わった。
デクに負けた…
氷の奴見て、敵わねぇんじゃって思っちまった
ポニーテールの奴の言うことに納得しちまった
昨夜はそれを振り切るために
ここで一番になる為に
がむしゃらに走り込んだ。
寝なかったんじゃねぇ
眠れなかったんだ。
この女は全部見透かしたうえで
敢えて詳細を言わねぇ。
同情か?
哀れみか?
慈悲振り撒いてんのか?
「お前何モンだ?
“個性”を言えッ!」
気付けば
自分でも信じられねぇほど凄んでた。
本能が警戒してんだ。
苛立ちなんか無くなる位に。
(心でも読めんのか?
記憶を浚うのか…?
どちらにせよ薄気味わりぃ…。)
パッと見ただけでもわかる。
見るからに細ぇ
大して鍛えちゃいねぇ
“個性”なんざ使わずとも
殴ってしまえば間違いなく一発だ。
俺を抑えてる奴らだって
そう思ってるから未だに手ぇ離さねぇんだ。
この状況を誰が見たって
俺の方が圧倒的に上なハズだ…
なのになんでだ?
なんで俺自身が
言う事を聞いた方がいい
そう思っちまってんだ!?
力じゃなく精神
見えねぇ力でねじ伏せられたような敗北感。
(また一人増えやがった。)
ぶっ倒さなきゃいけねぇ奴の数。
まさかこんな、か細い普通科の女が
そこに入って来るとは思わなかった。
その女は俺の質問には答えず
力無く笑い
「やっぱ無理か…。」
そう言って小さな包みに入った飴を差し出す。
呆けたのは俺だけじゃねぇ。
場の空気が一瞬で緩んで
誰かの気の抜けたような声が複数あがる。
腹の底まで落ちていた筈の苛立ちは
一瞬で脳天まで駆け上がった。
「テメェ! ふざけんなッッ!!
ナニモンだ!?
なんでテメエみたいなのが普通科に居やがんだッ!?」
差し出された飴ごと手を振り払うと
乾いた音に被せて固い音が数回カツンとなる。
返事は
女とは違う方向から飛んできた。
「俺も同感だ爆豪。
楠梨ハイリ、お前は何故…普通科に居る?」