第47章 【深緑色】デイドリーム
「この香りは…林檎か!」
部屋に戻るなりそう言ってツカツカと歩み寄る飯田。
何処かホッと目を和らげたクラスの委員長は
空いたばかりの緑谷のベットを一度だけ見て
俺へと…いや、俺を通し越してハイリへと視線を移した。
その目はどこか
見覚えのあるもんだった。
「おお、飯田も食うか?」
「では一つ頂こう!」
小さな既視感に
内心首を傾げながら問う。
会話自体は自然だったハズだ。
一言「え」と漏らしたハイリが
慌てて林檎を一口大に切り始めた。
よくよく考えれば当然の事
飯田は今
両手が使えねぇんだ。
「はい、飯田くん口開けて?」
「む!?」
途端、赤らんだ飯田の目元に
俺の中の何かがピクリと反応する。
細めた視界にその男を映した。
もう、センサーみてぇなモンだ。
ハイリに好意を寄せてる男に反応するセンサー。
(コイツもだったのか…。)
言っちまえばそんな男は山ほど居る。
一人一人を気にしてたらキリがねぇ。
第一ハイリに自覚がねぇ
ならば男を警戒せずハイリを捕まえときゃ良いだけの話。
ただ…
唯一牽制してる爆豪が著明なせいで
今まで目立たなかっただけなのか
この時の飯田の反応には
警戒すべき何かがあった…。
「これ食って良いぞ?」
「ふご!?」
「ちょっとそれはっ…!」
自分が食うはずだった猫を飯田の口へと突っ込むと、ハイリはガタリと音を立てて立ち上がった。
が
吐き出させようにも
飯田がしゃくしゃく音を鳴らし始めてそれは叶わないと判断したらしい。
わたわたと汗をまき散らしながら茶を注ぐ
お小言も忘れずに、だ。
「一口でこんな大きいの食べれる訳ないでしょ!?」
「ネコの方が旨いだろ?」
「そうじゃなくて!」
大きいと食いずらい
ンなこた俺でもわかってんだ。
言い分はごもっとも
だが
俺の心労も少しは察して欲しいところだ。
この女は自分への好意に鈍すぎるというより
慣れ過ぎて麻痺してやがる。
全ての好意は“自分の個性”に向けてのもの。
その固定概念が強すぎる。