第47章 【深緑色】デイドリーム
この人ほど
お説教し甲斐の無い人は居ないと思う。
「焦凍? 聞いてるの!?」
「あぁ、聞いてる。」
そう言って真面目に頷いてはいるけれど
彼の視線は今、私に刺さってはいない。
じゃぁ誰にって?
リンゴだ、うさぎリンゴ。
あれからひとまず売店に行って
飲み物を調達するついでにフルーツと果物ナイフを買った。
緑谷くん達へのお詫びもかねての事だったんだけど
焦凍が「林檎のウサギ作るとこ見てぇ」なんて言うから
先に林檎にだけ刃を入れることにしたってだけ。
それが間違いだった…。
「……すげぇな。」
まじまじと見る様はもう子供。
あまりにも褒めてくれるものだから
調子に乗ってスワンも作ってしまった。
もはや、私の説教なんて右から左だろう。
「オールマイトも作れるんじゃねぇか?」
ほら、ね?
キラキラしたその表情
ショタろきくんとでもいうべきか
実年齢以下に見える。
正直に言おう。
表情は特別変わってる訳じゃない
だけどすっごく可愛い。
「今度…頑張ってみるね。」
絶対無理に決まってるのに
彼に骨抜きな私はどこか上の空でへらりと返す
しゃくしゃく食べてる横顔
焦凍の方がウサギみたい。
そんな事考えながら見ていたら
リンゴがコロリ、彼の手元から落ちていった。
「あ、兎が逃げちまった。」
「ぶっっ!!」
吹きだしたのは言うまでもない。
ちょっとしゅんとしてるよ
どれだけ可愛いの
(だめだ。笑っちゃだめだ。)
そんな気持ちはちゃんとあったの。
だって一応お説教中だし…
片手で口を抑えながら床に落ちたリンゴを拾う
寄こせと差し出された手には返さなかった。
でもね、あまりに可愛くて…
「うさぎさんは野生に帰りました。」
「じゃ、次は猫。」
「猫ぉ!?」
聞いたことのない猫リンゴ
頓狂な声出しちゃったけど
結局耳を小さくして鼻も丸く削いで
なんちゃってを作ってしまった。
なんでこうなった…
勿論思った。
でもね、入院中って甘えたになるよね
周りも優しいからつい我儘になっちゃう。
きっとね
ホントはお母さんにして欲しかった事なんだろうなって
…そう感じたから
全部叶えてあげたいなって
思ってしまった。
こんな心で
お説教なんて出来る訳がない。
そうこうしている間に
彼が戻って来たの。