第46章 【深緑色】 限局性恐怖症
一瞬引けった飯田は
姿勢を正し、顔を上げた。
目端に何かが引っかかったのだ
白く見えたそれは気のせいではなく
はっきりとした人型。
よく見ようと眼鏡を直そうとして
不自由な両手にしかめ面を一つ。
ズレた眼鏡のまま首を回せば…
緑谷の大声に何事かと駆け付けたのだろう
そこには白衣の女性が一人。
「緑谷さん? 飯田さん?
どうかされましたか?」
確か白衣のなんとやらと
言われている職業ではなかっただろうか。
腕を組み入り口で仁王立ちするその姿
般若の如し。
天使など何処探したっていない。
突如現れた5人目に
飯田以上に緑谷の肩が跳ねた。
ゆっくりと
ギギ…と音を鳴らし
その首が回される…。
その舌は
いつになく饒舌だった。
「イイイイエ!
のののののののの飲み物でも買いに行こうと思ってっ
何が良いか相談し合ってたんですっ!!
ね? 飯田くん、ね?ねっ!?」
「いや、俺は轟くんが楠梨くんを…「わぁあああァアアアぁああァアアッ!!!」」
よくもまぁ
こんなに舌が回るものだ。
遠慮なく否定しようとする飯田の口を
両手で被う緑谷。
被せた大声に睨みを利かせる看護師は
中々な貫禄の持ち主だ。
一言二言三言
もっとあってもおかしくない。
頼むこれ以上人数を増やさないでくれ
これ以上は自分も作者も限界だ。
ジロリと部屋を見渡した看護師の目が
閉められたカーテンへと留められ
再び緑谷たちへと戻ってくる。
冷ややかなそれは
他の患者に迷惑をかけるなと言いたげだが…
「そう、ですか
売店なら新館と本館の間にありますよ。」
どうやら今までの大声には
目を瞑ってくれるらしい
だから代わりに今すぐ行けと
目元に立つ青筋が主張する。
「ハイッ!
スミマセンッッ!!」
気苦労に不運を重ねた少年は
委員長の背を押し、いそいそと病室を出た。