第46章 【深緑色】 限局性恐怖症
飯田とカーテンの間に立ちふさがる緑谷は
万が一にも開かない様に
後ろ手にカーテンの合わせをぎゅっと掴む。
そして
自分越しに交わされる会話に苦笑を漏らした。
(それにしたって……。)
不思議な空気の張り詰め方だ
一方は真剣に
下手したら自分へ敵意を向ける勢いで
そして一方は…
「おねっ…がいっ!
ぅ…ン、ちょっ…ァ
はいっッッ…てこないでッッ!!」
相も変わらず“呻いて”いる。
「だが楠梨くん!
どう考えたった尋常じゃない息遣いだぞ!?」
「だいッ…じょおぶっ!!」
それが飯田に
拍車をかけているというのに何故止めようとしないのか。
そもそも轟はナニをやっているのだろうか
ハイリの声に飯田の眉間の皺は
深くなる一方だった。
「だがッ!!」
キリと上がるよく通る声
兎にも角にもヒーローの何たるかを
再認識した男の正義感と言ったらない。
ハイリが必死に誤解を解こうとしているのに
今にも乗り込みそうな勢いではないか。
目力を上げ
姿勢は前のめりに
間に入っていなければ
とっくに中に入っていることだろう。
頼む察してくれ飯田くん
楠梨さんだってこう言ってるじゃないか。
願いはいつまで経っても届きはしない。
「ちッ…がうの!
喧嘩じゃないッッ!」
ハイリもハイリで
そろそろ泣きだしてしまいそうだ。
飯田に対してなのか
轟に対してなのか
もはや緑谷にもわからない
肝心の轟が何をしているのかは
もっとわからない。
(大体轟くんはなんで何も言わないんだ!?)
緑谷にも
流石に疲れが見えてきた
止めるのも
ツッコミを入れるのも
……大声を出すのも
「飯田くんっ!二人は大丈夫だからっ!!」
もうこれが最後だと声を張り上げる。
一際大きな声は部屋だけでなく
廊下にまで響く勢いだった。