第46章 【深緑色】 限局性恐怖症
(飯田くんっ…眩しすぎるっっ!)
まさにヒーロー
君は間違いなくヒーローだ
兄の復讐から始まった昨日の戦闘を経て
大人のルールを痛感し
ハイリの言葉を胸に刻んだ彼は
ヒーロー魂に磨きを掛けたようだ。
恐らく劣勢と思っているであろうハイリの為に
クラス屈指の実力者に挑まんとする
その意気やよし。
だが惜しい
君は一つ思い違いをしているんだ。
(二人は…喧嘩している訳じゃッッ!)
そう
中の二人は仲違いしている訳じゃない
寧ろ…逆なのだ。
だがなんと説明すればいい…
悩む緑谷には今
圧倒的に足りないものが一つある。
それは何か…
(ぼっ僕の口からはとてもっっ…!)
それは語彙だ。
語彙力が足りていない。
この中の状況を的確に説明するだけの言葉を
彼は持ち合わせていないのだ。
仮にも名門校の生徒
学力は人並み以上
……本当は知らない訳ではない
だが使いたくない
そう、使いたくはない。
悩む
迷う
惑う
そんな緑谷を救うが如く声が降る。
それは
確かにこの誤解を解くのに
最も適した人物の声だった。
「い、飯田くん…ごめん、ンッ」
轟よりも説得力はあるだろう。
仮に喧嘩をしている前提で聞いていたとしても
優勢は轟で劣勢はハイリ
そこは違い無いはずだ。
本人が『違う』と言えば解ける誤解
そこも間違いない筈だ。
「ちがうのっ、ぁ…ぅ。」
間違いない筈だ
間違いない筈だ
間違い、ない…筈なんだ…
「喧嘩ッしてる訳じゃ…っ、ぁっ」
ただ…その声は
どうにかならないものだろうか?
まるで全力疾走直後のような
切れ切れの声。
合間に入る小さな促音を
なんと表現すればいい…。
(悲鳴? 叫び?)
何かないものだろうか?
もはや回ってすらいない頭だというのに
次から次へとよく悩めるものだ
緑谷の百面相に
不信感を抱き始めた飯田が口を開く
怪訝そうなその表情
あるのは不審だけではない。
「そうだろうか…?
なんだかさっきから
楠梨くんが呻いているようにしか思えないんだが…。」
「っそれだ!」
「ではすまないが退いてくれ。」
緑谷の激しい同意も華麗にスルー
不満を露わにした飯田は
どこか目を据えて緑谷を見下ろした。