第46章 【深緑色】 限局性恐怖症
瞳を閉じ
心の耳を塞ぎ
緑谷は天井を仰ぎながら心の中で叫ぶ。
まるでどこぞの誰かに問うように。
(さっきまでのシリアスはどこ行った!?)
せっかくなので一応答えておくが
私だって聞きたいくらいだ。
何故こうなった
どこから狂ってしまったんだ。
わからない…
何故なら全ての主導権は私ではなく
轟にあるからだ。
彼は言う事を…聞いてくれないのだ。
(そんな…責任丸投げ!?)
コイツは使い物にならない。
そう判断したのだろう
両目を開いた緑谷は
助けを求めるがごとく視線を飯田へと移した。
するとどうだろう
自クラスの委員長は至極真面目な表情で
時折揺れるカーテンを見つめているではないか。
「ゃぁ…んっ」
漏れるハイリの声にも
眉一つ動かさない。
流石委員長
精神の強さが違う。
『どうしよう…?』その意を乗せて視線を投げるも
まったく見向きもしないその集中力。
まるで敵の陣地で情報を収集すべく
身を潜めている忍のようだ。
(あれ…?)
その様子に
癖ッ毛だらけの頭が大きく傾いた。
ちょっとこれは
ガン見し過ぎではないだろうか?
いや、確かにカーテンに隠れてはいる。
だから見えやしないのだが
だからこそなんか…おかしい。
見えないのに
そこまで注視する必要があるだろうか?
(って、それじゃ見えるなら
ガン見するのかって話だよっっ!!)
落ち着け緑谷キャラが違う
この手の話に全く免疫のない緑谷は
煩悩を振り切るように首を振る
そして
まったくこちらを見ようとしない飯田へと
手を伸ばした。
肩を叩こうと思ったのだ
まったくこちらへと視線を映してくれないのなら
もうそれしか術はない。
もはや小声という手段も浮かばぬほどの混乱。
藁にもすがる思いで手を伸ばす。
――スカッ
しかしその手は飯田に届くことは無く
虚しく宙を掴んだ。
(はれ……?)
見上げたその顔は
凛々しい事この上ない。
眉をキリと上げ
眼鏡の奥の目に力を籠め
まるで今から戦地にでも赴くかのような表情
轟ほどではないが
何気に表情の変化が乏しい人物だ。
自分の勘違いかもしれない
かもしれないが…
(なんで立ち上がった!?)
全くもって不可解だが
飯田は立ち上がっていた。