第6章 【桜色】物言えぬ処方箋
~Sideハイリ~
怒鳴られ、睨まれ、詰られ
お詫びの一つは必要だろう
そう思って顔を上げた。
昨日は思わなかったけど
この人も随分とストレスを抱えてる。
まともに顔を合わせて最初に思ったのがそれだった。
爆発後の室内に漂う甘い香りには覚えがある。
爆薬の1種でもあるが
私にとってはこちらの方が馴染み深い。
血管拡張作用がある為、
狭心症の薬にも使われるこの成分
(ニトロっぽいな
すごい強個性だ…。)
正直、目の前の爆発よりも
まずはそっちに驚いた。
だけど少なくともその爆破は故意ではなかったらしい
爆発直後、一瞬の間に私を窺った彼の顔は
私より虚をつかれていたように見えた。
ここ二日、ずっと轟くんといる所為か
怒りを露わにする彼はやけにわかりやすく感じる。
目を見開く彼をまじまじと見ていると
大きな影が私と爆豪くんを遮った。
「爆豪くん!
君はいい加減にしたまえ!!
ヒーロー志望が無抵抗の女生徒に攻撃を仕掛けて
恥ずかしいとは思わないのか!?」
飯田くんの言葉に爆豪くんは何も返さず
事故を起こした左の手の平に視線を落とす。
あくまで威嚇で
攻撃する気は無かったんだ。
良かった。
ヒーロー志望なのは間違いないみたい。
昨日はヒールの様だと思ってしまった。
彼にもお詫びしなければ。
今は多分逆効果だから、いつか…
とにかく今はこの状況をなんとかしなければと
諫める飯田くんを止めることにした。
「大体君は初日からして――…」
「飯田くん! 今のは故意じゃないよ。
それに私も大丈夫。」
昔馴染みで真面目な彼のことだ。
味方の少ないであろう
他クラスの私を庇おうとしたんだろう。
爆豪くんが故意じゃない事はみんなも気付いてる。
だから何も言わないんだ。
流石ヒーロー科
……………少しだけ羨ましく思えた。
それに、彼が事故を起こした原因も大体わかった。
問題はこのプライドの高そうな『患者さん』を
『普通科のモブ女』である私が、どう説き伏せるか…だ。