第46章 【深緑色】 限局性恐怖症
(ど、どうしよう…。)
深刻な雰囲気が一転
ベージュのカーテンの向こう側は
何やら別の意味で二人の世界となってしまっている。
ゆっくりと変わり始めた空気の色は
哀から愛へ
音は同じでもその色味は正反対。
しつこいようだが
別に自分のベッドが惜しいわけじゃない。
特に何か用事があるわけでもない。
(でっ、でもなーー…。)
こうも甘い会話を間近で聞かされてしまうと
こっちも落ち着ける訳がない。
ハイリはともかく
あまり聞いたことの無い轟の声音は
別人かと飯田の口元を確認する程に
聞き覚えの無い声だった。
「会いたかった…。」
「まだ3日しかたってないよ?」
ハイリはもう落ち着いてしまったのだろう
クスクスと笑う声が聞こえるが
本当にそれだ。
各々の健闘を祈りつつ
駅のコンコースで別れたのが3日前。
たったの
たったの3日だ。
(再会を喜ぶほどの期間じゃない気が…)
誰かと付き合った経験があるわけじゃない。
しかし
学校には祝日だって祭日だってあるのだ。
2、3日会えない事なんて
ザラじゃないだろうか?
まさか二人が同棲しているなど
夢にも思わぬ緑谷は思う
それはいくらなんでも…と。
普段の彼ならもう少し寛容だったかもしれない
『あの二人ならあり得るか』
くらいは思ってくれたかもしれない。
だが今の緑谷では無理だった
そんな余裕はなかった。
轟の声音が
糖度を増す一方だからだ。
「ハイリに触れるのは久しぶりだ…。」
「ちょ…っと、
駄目、駄目だよ?」
「わかってる、少しだけだ。」
「んっ…わかって…ないぃぃ…っ!」
蜂蜜よりも
シロップよりも甘い声は
聞いてるこっちが胸やけを起こしてしまいそうだった。
緑谷は焦る。
そうだ、ハイリの言うとおりそれは駄目だ。
絶対、絶対駄目だ。
何かと問われれば
具体的に答えられないけれど
この二人ならなんとなく…
想像がついてしまう。
(それは絶対ダメなヤツ!!!)
笑えば良いのか
泣けばいいのか
百面相を繰り返す緑谷は
両手で耳を塞いだあと
両手で目を覆い
そして
両手で口を押さえた。
もう、何がしたいのか
自分でもわかっていなかった。