第46章 【深緑色】 限局性恐怖症
薄っぺらな壁の向こう側
自分のベッドに腰を下ろした飯田の隣で
緑谷は思い悩んでいた。
視界は遮られた。
それでもわからない筈がない
轟の詫びと
小さくしゃくるハイリの声
(あの楠梨さんが、泣いてる…。)
USJが襲撃された時は
表情を曇らせる事すらなかったハイリが泣いている。
もはや『そこは自分のベッドだ』など
細かいことを言うつもりなど毛頭ない。
休む場所を失った緑谷は
空きベッドへと腰を下ろす。
飯田と向かい合い
無言の反省会が始まった。
反省会とは言っても
一人考えを巡らせるだけだ。
(もっと冷静に動くべきだった。
予想が当たって、しかも目の前の状況に焦りが勝って連絡より先に手を出してしまったのがそもそもの原因だ。先にプロヒーローに連絡すべきだった。いや、飯田くんを探している時点で誰か一人くらいプロに声を掛けるべきだった。いや、それを言うなら――…)
声には出さないものの
ブツブツブツブツ
お得意の自己分析。
不意にコンと何かがスリッパの先に触れた。
見ればそれは飯田の爪先
その飯田は視線で自分のベッドを指していた。
カーテンに仕切られた
緑谷のベッド。
中に居る二人は
ようやく会話らしい会話を始めたらしい。
「もう…こんな無茶はしないで…。」
「わかった。」
「約束。」
「ああ、約束だ。」
時折スンと鼻を鳴らす。
ハイリの声はまだ掠れているが
随分と落ち着いたようだ。
ホッとついた息に
こっちの力も抜けてしまう。
自分の分析から二人へと
意識を移した緑谷は
どのタイミングで声を掛けようか耳を澄ましていた。
「次約束破ったら
本気で怒るから…。」
「今回のは、本気じゃなかったのか?」
「本気…でした。」
「…やっと笑ったな。」
クスと笑った声はどちらの物かわからない。
だが会話の内容からして
ハイリも笑えているんだろう。
別にベッドが惜しいわけじゃない
だがそろそろ声を掛けてもいいだろうか?
緑谷は頬を掻く
苦笑を零しながら
「何で笑うのっ!?」
「わりぃと思ったが
嬉しくもあったってだけだ。」
「~~~~もうっ!!」
これはこれで
声を掛けにくいな…と。