第6章 【桜色】物言えぬ処方箋
~Sideハイリ~
「やや? 楠梨くん?
楠梨くんではないか!?」
梅雨ちゃんが席に座ったのを見届けて
お別れの挨拶へと話題を持って行こうとした矢先
思わぬ知り合いと出会ってしまった。
彼女のすぐ後ろの席に座る
この優等生が服を着て歩いている様なメガネくんは……
「ああっ! 飯田ファミリーの!」
「その言い回しはやめてくれたまえ。
天哉だ、飯田 天哉!!」
まさか彼がここに居ようとは
とは言え梅雨ちゃん程の衝撃は無かった。
ヒーロー一家の次男坊。
ここにいてもおかしくない人物だ。
縁あって私たちと言うよりは親同士の知り合いと言った方が近い。
特に親しいわけでもない、母の法事で何度か顔を合わせた事がある程度だ。
だけどこれはマズイ。
一つタイミングを無くし、また去りづらくなってしまった。
こうなってくると入り口付近の席にたむろするというのは、かえってデメリットが増えると言うもので…
「あ! ハイリちゃんじゃん!
今日はどしたん?」
教室に人が入ってくる度に
視線を集めてしまう。
他のクラスの、しかも普通科の生徒が居るんだから当たり前なのだけど…
「上鳴くん、昨日は
………ごめんなさい。」
「……なんで!?」
輪は徐々に大きくなってくる。
やがて初対面の人も加わり始めて
もう大体の名前を把握してしまったんじゃないかと思う頃
彼がやってきた。
「退けや! クソカス共がッッ!!」
それは、まだ二回しか顔を合わせていないというのに
次の台詞がありありと想像できる程
単一なボキャブラリーを持つ男
「あ"? なんでこのモブ女が1-Aに居んだよ?
あ"ァ!?」
爆豪くん、その人だった。