第45章 【深緑色】オープン・クエスチョン
(全く末恐ろしい少女だ。)
ハイリには見えずとも
塚内は相槌を打つたびに頷いていた。
『病歴に気になったものがあるんですが…。』
雄英が囲うのも頷ける
味方で居てくれるならばこの上なく頼もしいが
敵となれば脅威でしかない。
攻撃力?
回復力?
機動力?
防御力?
確かに戦闘に置いてそれらは必須と言えるだろう。
だがそれらと同等に
ヘタしたらそれら以上に必要な物
敵と対峙する上で真っ先に欲しいもの
それは何か…
『急性の呼吸器障害を患ったことがあるようです。
原因はトリクロロエタン…詳細は割愛しますが
かなり昔に規制のかかった薬物です。』
それは――情報だ。
診るだけでその対象の中身が見えてしまう
病歴、使用している内服薬、外用薬
病気によっては生活環境まで見えて来る。
薬が割れればルートが
生活環境が割れれば――
『施術中に取り込んだか、住処がそういう場所なのか…
どちらにせよ衛生的な場所だとは思えません。
例えば…かなり古い…
そうですね、廃病院…いえ、廃工場…とか…。』
――住処すら割り出せる。
少女の弾きだした答えに
塚内の閉じられていた目は僅かに開いた。
(このポテンシャル…)
“個性”とそれに伴う膨大な知識量
これで未だ発展途上とは…
意図せず男の喉が鳴る。
成熟した暁には
雄英の屋台骨などまだぬるい…
間違いなく
人々を牽引する存在となるだろう…。
あくまでも
裏を取り仕切るブレインとして。
楠梨 ハイリ
彼女は雄英が長年かけて作り上げた
最高傑作だと言える。
「成程、当たってみよう。」
『お願いします。
詳細は次にお会いした時に…
今日は戻られますか?』
「あぁ…夕方くらいには――…」
話の出口
通話の終了の兆しが見えて何を焦ったか
塚内はフ…と言葉を止め少女の名を呼んだ。
「…――ハイリちゃん。」
『はい?』
不意に問うてみたくなったのだ
何の情報も無いまま彼女が何と答えるか
我々か懸念している男の“個性”を知らされぬまま
彼女がどんな結論を出すのか
一致した暁にはきっと
それはこの上ない確証となるだろう…。
「君の率直な意見が聞きたい。
君は奴を、脳無の改造を何の為だと考える?」