第44章 ♦番外編♦ Xmas シンドローム
―――――……
「……ろ、…と……き…
おい、起きろ轟、楠梨。」
開いた視界は明るかった
ハイリは寝ぼけ眼を擦りながら
愛しい彼を探す
すぐ隣で眠る轟の寝顔に息をつき
ホッと胸を撫でおろした。
無機質な音が響く開発工房
その音が告げる
帰って、来たのだと。
「大丈夫か?」と問う教師の言葉には答えなかった。
この記憶が消えてしまうのではないかと
突然不安になったのだ…。
「パワーローダー先生…
私達…変な体験をしたんです。」
うん…と唸りながらハイリの膝へと頭を乗せる
その髪を撫でながら
ハイリの口はゆっくりと今日の出来事を紡ぐ…。
「…――それで、帰って来これたんです。」
静かに全てを聴いた教師は
それをどう解釈すべきか
悩みあぐねていた。
「そうはいってもお前らは
ずっとここで寝ていたんだぞ?」
教師にとってはそれが紛れもない事実。
大方夢でも見たんだろう
この手の話に夢オチはつきものだ。
鼻で笑うでもなく
真に受けるでもなく
淡々と事実を突きつけた。
そうもはっきり言われると
自信が無くなって来るのが人というもので
本当は夢だったのか…?
そんな迷いが芽生えてしまう。
「ねぇ、焦凍はどう思う?」
「……ん。」
指から零れ落ちてしまいそうな記憶を抱えたまま
少女は今しがた起きたばかりの恋人へと
問いをかけた。
と、拍子に目を瞬かせる。
その胸元に
あるべきものがない胸元に
思わず自分の胸に手を添えた
朝デコルテラインを飾っていた二つの輪は
チェーンごとなくなっている。
(やっぱり…夢じゃない…。)
夢ではないのだ
いいじゃないかそれで
誰が信じようと、信じまいと
私たちは今日
確かに二人の子供に出会った。
声も温もりも
その重さもしっかりと覚えている
それが全て
今年のクリスマスの全て
自分が信じられるのなら
それでいい――……
「そうですね…。」
小さく零した同意が
カタカタと絶えない機械音に消えていく…。
無言のまま絡められた指と指
それは固く
絶対に10年後にとただ固く
思いを馳せるかのように見上げた窓の外
星空が丸裸の木々を照らす
その下にはまだ溶けきれていない雪が
白く輝いていた…。