第44章 ♦番外編♦ Xmas シンドローム
今日の記憶が駆け巡る
響くのは子供たちの声だけだ
思い起こせば起こす程
とても物わかりのいい子たちだった
『わかった!
そっくりさんだねっ?』
『あぁ、そっくりさんか。』
違うと言えばすぐに受け入れ
なのに自分を父と
ハイリを母と呼ぶ
『わかってるよママ
パパはママのなんだよねーっ?』
名残惜しそうにしながらも
二人だけで帰ると言ってきかなかった
『たいへん! かえらなきゃ!』
『くらくなる…。』
夕暮れの子供が当たり前に口にする言葉。
普通に、子供たちを主語として受け止めていたが
もし、この主語が
別の人物だったとするならば……?
『ねっくれすだ…。』
『ねっくれすだね。』
例えば仮に
自分たちだったとするならば…?
『やっぱり…!』
『だからいったろ?
ぼくはわかってた。』
『わたしだってっ!!』
考えれば考えるほど
辻褄が、合い過ぎる……
「成程…。」
「よく考えたら、当然かも…だね。」
無理のない話じゃない。
今日を越えて
自分たちの10年後はあるのだから
10年後の自分たちも
同じようにしてやられたのだろうから。
「してやられた相手が未来の自分らってのが
何とも言えねぇな…。」
「何はともあれ、感謝…だよ。」
一体どこまでが偶然で
どこからが謀だったのだろうか…。
楽しい悩み事は後で良い
今は一先ず帰るのが先。
そして帰ったらベッドの中で相談だ
10年後この日の為にどんな謀を立てようかと
そう思うならば
今する事はたった一つ
「キスで、いいんだよな?」
「うん…!」
そっと抱き寄せ口づける
重なる唇と伝わる温もり
薄く開いた視界に橙が灯った
赤々と灯ったその色は
徐々に明度を落としていく
橙、黄、白へと…
その灯が潰える瞬間
西で燻っていた橙もまた
地球の裏側へとその身を隠した。