第44章 ♦番外編♦ Xmas シンドローム
この二人は一体どちらがお兄ちゃんで
どちらがお姉ちゃんなのだろう
小さな手が小さな頭を撫でる
微笑ましい光景と会話を
二人は映画のワンシーンでも見ているかのような心地で見守っていた。
「ほら、おしえてあげないと…。」
「うん…。」
「ぼくがいう?」
「わたしもいう…。」
「できる?」
「だいじょうぶ…。」
向かい合って両手を繋いで頷き合う
垂れていた眉はいつの間にか元通りだ
向けられた笑顔は輝くよう
頬にも負けない赤い口がそっと開く
まるで内緒だよ、とでも言いたげに
いつの間にか引き込まれていた
参加していた映画のワンシーン
「あのねっ」
「おしえてあげる…。」
見上げられた二人は目を合わせ
膝をつき
耳を寄せた。
交互に語られる
内緒話を受け取るために。
「あのね、ゆーえーのね
せんせいの……えっと…」
「おうち、せんせいのおうち。」
「そうそう!おうちのね、
きたのほう…の…」
「ずっとずっと、いちばんおく
だよ。」
まるで何かの暗号のようだ。
幼い二人からのそれは
解読は出来ても意味が解らない。
『そこがどうしたの?』と問えば
ただただ首を横に振るだけ。
意地悪ではなさそうだ
満足気に向けられた幼い笑顔は
重要な任務でも終えたかのようで…
「できた、えらい?」
「うん、えらい。」
「ふたりともえらい!」
「うん。」
お互いを褒め合う二人の間に
それ以上
水を差す様な事は言えなかった。
しかし間違いなく
そこはとても大切な場所なのだろう
「はやくいってね!」
「いそいでね。」
「ぜったい、だよ?」
「やくそく。」
差し出された短い二本の小指
なんとか絡めて頷き合う
何度も念を押した少年少女は
薄暗い空から
人工的な光の元へと
手を振りながら駆けていく
何度も
何度も
振り返り
とうとう俯いてしまったその顔は
やがて大きな人壁に遮られ
見えなくなってしまった…。
「「…………………………。」」
なんだか
夢から覚めた気分だ。
振り返ればそこには
いつものポスターがあるかと思えるほどに
しかしやはりそこにあるのは
自分たちのポスターで
後回しにしていた問題にぶち当たる…。
「行くか…。」
「そだね。」
何処へ?など
問うまでもなかった。