第6章 【桜色】物言えぬ処方箋
~Sideハイリ~
グッと両手でこぶしを握っていると
ようやく私へと意識を移したのか、理解できないとでも言いたげなオッドアイが私を見下ろしていた。
「それがどう関係するんだ?」
本当に聞いていなかったんだ…。
正直
説明していた私の時間を返して欲しい…
なんて思ったけど、もうゲートはすぐそこだ。
オールマイトが雄英の教師に就任したと言うニュースは
全国を驚かせ連日マスコミが押し寄せる騒ぎになっている。
一生徒としては迷惑極まりない話。
その為、かなり時間に余裕をもって登校しなければ
報道陣の渦に巻き込まれてしまうのだ。
しかし今日ばかりはその壁に若干、感謝していた。
お陰でゲート外の風景がその壁によって遮られている。
要はゲートを一緒にくぐらなければ教師陣にバレることはないって話だ。
そんなゲートを目の前にしての説明は、自分でも感心するほどに簡潔だった。
「つまりね、手段を選ばない怖いお兄さんが轟くんに目を付けたら厄介なことになるって事!」
だから校内では轟くん…と言うかヒーロー科とは距離を置いていたいところ。
彼の鼻先に立てた人差し指を突き付け睨み上げる。
流石にここまですれば
反論はあろうとも一先ずは黙るだろうと思っての事だった。
「とりあえずはわかった。」
何か思う所があるのか
どこかに意識を置いたままの即答は
こちらが拍子抜けするほど。
だけどもう距離が無い。
湧き出る疑問を何とか抑え込み
今は、とゲートに向かって足を向けた。
「ありがと!
じゃ、私先に行くねっ!」
駆け出しながら未だゆっくり歩く轟くんに片手を振る。
上げ返された手に安堵して
オールマイトコールの止まぬマスコミ陣に向かって駆け出した。