第6章 【桜色】物言えぬ処方箋
~Sideハイリ~
つらつらと説明を続けてはみたけれど
轟くんはどこか上の空だった。
それでも私の言葉に「ああ」とか「そうだな」とか相槌は返ってくるし、それなりに聞いてたんだと思ってたんだけど。
「なんでそうなったんだ?」
全然聞いてなかった。
それだけは分かった。
言葉だけ聞くと驚いている様に思えるけど、
目の前の顔にそんな色は見えない。
と言うかこの人、表情の変化が乏しいからわかりにくい…。
ガヤガヤと賑わしいはるか前方を気にしつつ
私は一つため息をついてもう一度説明をすることにした。
「だからね? その『消太くん』、私が普通科に居ることが気に入らないのよ。」
気に入らないなんてレベルじゃない。
雄英の推薦を蹴ったあの日から今日に至るまで
あの人からの連絡の量は計り知れない。
LINE、電話、まさかの封書
私はその全てを無視し続けている。
怒っていないハズがない。
蹴った事を怒っているのか、無視したことを怒っているのか
今となってはそれすらわからない。
…………ゾワリ
粟立つ肌は春の朝には似つかわしくないものだ。
今日は雲が多いから?
絶対そんな理由じゃない。
校内じゃまだ見かけてない。
居るという保証はないけれど
居ないという保証もない…
どうか関係の無い所で3年間を無事乗り切らなければ。
平穏な高校生活を送るための絶対条件
それを満たす為の子供の浅知恵が
静かに、私の頭の中を巡っていた。