第44章 ♦番外編♦ Xmas シンドローム
伸ばしては曲げ
屈めてはまた伸ばし
空を漕いでいたその足が勢いよく伸ばされた。
宙を蹴り空を踏む
空へと舞い上がったその身へと
隣に立つ男が手を伸ばす。
「おい……」
舞う亜麻色の髪
ひらり翻るスカートの裾
肩にかけられたベージュのストールは羽衣の様
憂いの横顔に
轟はしょうがないかと
行き場を無くした手を額へと置いた。
漏れ出でるのは共感の苦笑だ
我が子と知った
受け入れた上での現実は
夢見る彼女に少々辛いもの
きっと彼女の頭の中は今
不安で満たされているのだろう
未来の自分は我が子に
寂しい思いをさせているのだろうか、と。
―――タンッ
宙を駆けた足は軽やかに土に着いた。
両手を上げて
「10点!」と声を上げるハイリが
「すごーい!」と駆け寄る子供二人の髪を撫でる。
亜麻色を抱き上げれば紅白が
紅白を抱き上げれば亜麻色が
「だっこだっこ」と手を上げる
苦笑を零しながらも交互に抱くハイリ
多少無理は見えるがそれは
まさしく母の顔。
この子たちの心が決して曇らないように
今日くらい楽しい思い出を…
ひしひしと伝わってくるその思いに
踏み出した足は軽やかだった……。
「ちょっと早ぇが
飯でも食いに行くか?」
「「いくー!」」
ひとしきり遊んで3人の額に汗が滲み始めた頃
一人涼しい顔した男は
そう言って子供二人を抱き上げた。
一人を抱えるのがやっとなハイリは
反射的に眉を寄せる
(何だか悔しい…)
それを見た少年が
ハイリを指さし声を上げた
「あ、やきもちやいてる。」
「お、」
「へっ?」
続く少女はやれやれと
両手を上げ
大袈裟に首を振る。
仕草も言葉も
大人に仕込まれたものに違いない
それくらい慣れていた。
「わかってるよママ
パパはママのなんだよねーっ?」
無垢な笑顔と固まった笑顔
似て非なる笑顔の間を木枯らしが吹き荒ぶ
枯葉を伴った風はヒューヒューと
ハイリの心の中まで冷かしにやってくる。
自分の子供のころと比べると
随分おませなこの少女。
その笑顔に
仕草に
言葉に
違うと理解されて尚、未だパパと呼ばれる男も
ママと呼ばれる事に慣れ始めた女も
一様に絶句した。