第44章 ♦番外編♦ Xmas シンドローム
そういう女だと言うのは
わかりきった事。
しょうがないと溜息をつき
この後どうするかと思案する轟。
(もし騒ぎになった場合は――…)
最悪、無理にでも雄英に連れて行くか
そこまで考えてピタと足を止める。
屈んだ彼女の向こう側
小さな影はどうやら子供の物のようだ
4~5歳だろうか
無垢な顔があがる。
くりくりと輝き始めた亜麻色の瞳と
ホッと和らげられたオッドアイ
そして
ここまで来りゃ何があっても驚かねぇ
そこまで思っていたというのに度肝を抜かれたこの一言
「ママっ!」
「まま!?」
「パパぁっ!!」
「……ぱぱ……」
いや…二言。
ハイリに抱き付いた少年と
自分の元へ駆けて来る少女
少女は小さな手を伸ばし
止めたばかりの足に抱き付いてくる。
僅かな反動に仰いだ天井は
どこまでもどこまでも
透き通る天色(あまいろ)だった。
胸元で小さな金属音がチャリと鳴る
まるで
『そうだ、その通りだ』と囁くように。
「パパ、パパっ!」
手を伸ばし抱っこをせがむ様
まさにハイリ
ただ姿かたちが小さいだけ
雑誌の西暦さえ見なければ
ここは過去かと疑うほどに…
「あ、あぁ…」
轟は抱き抱えながら
何度も呼ばれるその名を反芻した。
(ここは10年後で
ちっせぇハイリが居て
ソイツが今……)
――パパ…だと?
流石に頭が追いつかない
それでも表情は崩れない所が流石と言うべきか
轟の混乱など何も気づかない少女は
無邪気な笑顔を浮かべたまま首へと抱き付いてくる。
そして突き付けてくるのだ
未来の現実を
「ねぇパパ、ひーろーは?
きょうは? いいの?」
にわかには信じがたいが
そういう事なのだろう…
ここは10年後で
自分を父と呼ぶ少女と
ハイリに母と抱き付いた少年
そういう、事なのだろう。
突き付けられた現実は
つい昨夜
自分たちが寝る間際まで思い描いた夢そのもの
「わたしたち
パパとママにね、あいにきたの!」
『あえたぁ!』と
幼い声が天高く上がる
意味は理解すれど
言葉は容易に出てこなかった。