第44章 ♦番外編♦ Xmas シンドローム
抱きしめ合ったまま
鼓動が落ち着くのを待っていた。
一言も発する事なく
双方瞳を閉じて
原因は間違いなく個性事故だろう。
問題は手段だ
時間が経てば自然と帰れるのか
それとも何かが無いと帰れないのか
先に視界を開いたのは轟だった。
「ひとまず雄英に行くか。」
兎にも角にも相談相手は必要だろう
帰れるとしても
帰れずとしても
仰ぐならやはりそこだろうと
下した判断にハイリも素直に頷いた。
「そうだね、行こっか。」
人気のない道を選んで
大きな手に引かれ歩いていく
俯いたその頬は僅かに赤く
うっすらと笑みが浮かんでいた。
(安心する…。)
彼と一緒なら何があっても平気だと
さっき思ったばかりだった。
それがまさか
こんな形で実現しようとは…。
頼れる背中に目を細め
深呼吸を一つ
落ち着いて考えれば今の状況
悪いことばかりではない。
ここが10年後の未来で
二人一緒に囃されたという事は
10年後も彼と共に居るという事なのだろう。
(それって一体どんな…)
どんな関係で
世間の目にはどのように映っているのだろうか?
解決に向かって進む歩とは裏腹に
現状に興味を抱き始める頭
何度も昇った坂が見え始める事には
亜麻色の頭は完璧に冷静さを取り戻していた。
いや、寧ろ
「ね、10年後の私達ってどうなってるのかな?」
この状況を楽しみ始めていた。
呑気な頭は思い描く
どうせこの後呆れた顔が振り返って
『オマエな…』と言いながら小突かれる
それでもきっと言ってくれるのだ
『結婚してるに決まってるだろ。』と。
しかし轟は振り返らなかった
言葉もなく
拳も飛んでこない
ただ静かに歩を止めて
山のふもとをじっと見つめる横顔。
「どう、したの?」
辿った視線の先の先
坂の入り口手前には寄り添う影が二つ
蹲っているのだろうか
随分と小さな影にハイリは目を見開いた。
(……病、人?)
思うが早いか
駆けるが早いか
その足は地を蹴った
繋いでいた手を離し
後ろからかかる声にも顧みず
自分の置かれた状況すら忘れ
ただその二人の元へと駆けていく。
「ったく…。」
『待て』と伸ばした轟の手は
苦笑と共に下ろされた。