第44章 ♦番外編♦ Xmas シンドローム
引かれるがままに跳び込んだ路地裏で
吐いた息が白く浮かび上がっては消えていく…
壁に背をつき息を整えるハイリを横目に
轟もまた
壁に手をつき考えていた。
「どうもおかしい…。」
おかしいのだ
ハイリと違って
騒ぐ人々の言葉に耳を傾ける余裕ならあった。
『頑張って下さい!』
『応援してます!』
『いつも仲良いですねっ!』
これらの中に混ざっていたこの言葉
『なんだ? 事件か?』
『いつもみてぇに秒殺で頼むよ!』
酷く違和感だ
だが同時に既視感も抱く
掛けられる側ではなく掛ける側
昔、TVの中の人物に向かって
自分が掛けていたような言葉
(あれじゃまるで……。)
自分が、自分たちが――…
一つの可能性に辿り着こうとしたその瞬間
「えっ…?」
ハイリの小さな悲鳴が
可能性を現実へと塗り替える
しゃがみこんだ彼女の手元には
捨てられていたであろう雑誌が一冊
『ヒーロー特集』と大きく書かれたその表紙に
自分の顔があってはもう…受け入れざるを得ない。
そこに刻まれた西暦が
受け入れ難くとも
全てを明らかにしているのだ。
―――ヒュゥ
風が――…吹き抜けた
体温をもろとも奪い去っていくような凍て風が…。
パラパラと雑誌の捲れる音が
乾いて響く
「……どうやら俺らは
ただ単純に瞬間移動をしたってワケじゃ
なさそうだ…。」
「本当に…ここ、10年後なの…?」
口にして更に実感する
ゾワリ背筋が粟立った
右も左もわからぬ見慣れた街並み
ここは自分たちの居場所が一切ない時代
あってはならない時代。
「焦凍…」
寒いのか
それとも流石のハイリも動揺したか
細い肩は小さく震えている。
「大丈夫だ…。」
言葉に根拠などなかった。
落ち着かせるために
落ち着くために
震える肩に腕を回し、ただ抱き締める。
先行き暗い体温の狭間で
対のネックレスだけが淡く光った。