第44章 ♦番外編♦ Xmas シンドローム
そりゃ染髪って方法もある
ウィッグだってある
だけど間違えるはずもない
背も、こんな僅かな横顔も
焦がれるほど見続けてきたのだから。
どう見たって本人だ。
ハイリの言葉に
轟は眉を寄せた
それこそ自分の台詞だったからだ。
「その台詞
そっくりそのまま返してやる。」
毎日の様に撫で
見つめ続けたその姿
見間違えるはずもない。
ましてやポスターの中の女は
自分が一番好きな笑顔を向けているのだから
「だからっ――…」
「大体だな――…」
互いが互いを如何に見ているか
ヘタしたら惚気の様な討論が
雑多の中で続く
しかしそこじゃない
そこじゃないのだ。
混乱が過ぎるあまり
未だ気付いていないこの現状
二人を現実へと引き戻したのは
どこからともなく上がった女の声だった。
「ねぇ、あれショートじゃない…?」
「うっそ! 二人一緒にいる――っ!」
きゃぁきゃぁと囃す声は二つ、四つと
伝染しては二乗に増していく
「「…………ッ!」」
なんだろうか
今日はやけに多い
そして勢いが良い
そのただならぬ空気に
我に返った二人は『とりあえずは』と目を合わせ
その場を後にした。
「なんか…
いつもとちょっと違う…。」
駆ける足
逃げ惑う間も
走る傍から声があがる
右へ左へと
通った事もない様な小道を選びながら
ハイリは頭を悩ませていた。
(どう考えたっておかしい…。)
ポスターの件もおかしいが
今はこの違和感だ。
老若男女からの好奇の目
今日はその量が半端じゃない
それでも彼だけならば
焦凍だけならまだわかる
体育祭準優勝の彼の知名度を考えれば
囃す声が上がるのはわりと自然
なのに何故…
(私まで――!?)
まるで二人セットかのように
もて囃されなければならないのだろうか。
走っている事が目立つのか
それとも前を走る彼自身が目立つのか
振り返れば
道行く人は足を止めて振り返っている
飛行機雲のように連なる人、人、人
「焦凍ッ
これじゃキリがないッ!」
「ああ、俺も丁度そう思ってたところだ…。」
『隠れるぞ』と
伸びてきた手がハイリの腕を掴んだ。