第43章 ♦番外編♦ Xmas Eve シンドローム
「ね、焦凍
ヤドリギの言い伝えって知ってる?」
突如始まったその問いに
轟もまた、口元に三日月を浮かべた。
(また始まった。)
いつもこうして謎かけを持ち出してくる。
わからずとも自ずと差し出される答えは不思議なもので
理解する頃には大体胸の内が片付いている
そんな処方のような『謎かけ』
一体今日はどんな処方かと
轟は頬杖をつき
得意気に上がった瞳を覗き見た。
「ヤドリギっつったらビャクダン科の常緑樹だよな。
あの鳥の巣みてぇな…。」
「流石推薦入学者、よくご存じで!
冬でも青々としてるからこの時期は見つけやすいんだよね。」
それでだ!と近づいた瞳は真剣だ
大方自分を安心させようと一生懸命なのだろう。
何よりも愛おしいこの時間
伏せた瞳で腕を伝い
手首を伝い
探し当てた指に己の指を絡ませた。
「それで?」
瞳を閉じたまま問えば
楽し気な声が謡う
クリスマスにヤドリギの下にいる若い女性は
キスを拒めないのだと
拒むと次の年に結婚のチャンスが
失われてしまうという言い伝えがあるのだと
逆にねっ!と囁く声はすぐ耳の側で響いた。
「ヤドリギの下でキスをすると
二人は永遠に結ばれるって謂われているの。」
浮足立った声が
次に言わんとしている言葉を浮き彫りにする
要はキスのおねだりだ
ついでにジンクスも叶えば儲けもの
轟にとってその程度でしかない『言い伝え』も
ハイリにとっては……
「明日、開発工房行くでしょ?
ついでに探そうよ! ヤドリギ!」
夢を叶えてくれる魔法らしい。
開いた視界
轟の瞳に映ったその笑顔は
薔薇色に輝いていた。
女ってのは皆こうなのだろうか
言い伝えだの
神話だの
昔話を引っ張り出しては
夢を馳せる…。
全くもって非現実的
だが…
「お前らしいな…。」
今宵の処方
どうやら言い伝えなんぞより
こっちの方が効果ありそうだ。
一人笑い薔薇色の頬に手を添える
出る言葉は皮肉そのものだ。
「無かったらどーすんだ?
諦めんのか?」
「これだけ木があるんだよ?
絶対あるでしょ!無くても――…」
負けじと言い返した唇が近付いた
ネックレスが触れ合いチャリと鳴く
囁く声は小さくとも
それは大きく固い約束だ。
「…――するよ、しようね?」
「当たり前だ…」