第2章 【桜色】先天性世話焼き
~Side轟~
朝の電車は当然の様に満員だ。
鮨詰め状態の車内で吊革の必要性なんざ皆無。
大半の人間がストレスを感じるであろうこの時間を、俺はいつになく不快な気持ちを抱えたまま過ごしていた。
雄英の最寄り駅まであと二駅と言う事もあって、周りには同じ制服を着た生徒も多い。
そんな車内で、今どうしても気になる事がある。
目の前に立っている女生徒だ。
車内の揺れに合わせて頭をユラユラと揺らし、時折俺に寄りかかっては離れていく。
メガネをかけている所為か俯いた横顔からは表情なんざ見えないが、様子がおかしいのは確かだ。
クソ親父のせいでイラついてるのか、どうしても目についてしまう。
(コイツ、頭大丈夫か……?)
徐々に近付いてくる目的地。
同じ制服を着ているからには、下車する駅も同じだろうに一向に様子は変わらない。
そしてとうとう目的の駅で扉が開いた。
流れる人。
それに押し出されるようにユラリとホームに足を付けた彼女は支えを失った途端にホームで体勢を崩す。
(―――――っ!?)
咄嗟に腕が出たのは言うまでもない。
後ろから腹に腕を回し、倒れない様に引き寄せる。
ヒーロー志望じゃなくても誰もがとる行動だろう。
「あ…っぶねぇな…。」
腕の中の女生徒は
強めに引き寄せられたにもかかわらず
未だ瞳を開く気配はなかった。