第42章 【深緑色】医療保険~指定難病恋型~
「ンな事してたら遅刻しちまうぞ?」
焦らすつもりなんかない
「俺も脱いでやるから。」
そういう理屈じゃぁない
これは『忘れてた』と言うべきなのか
『気付かなかった』と言うべきなのか
時計を見たのは自分で
遅刻がどうのと言ったのも自分で
なのに頭からすっぽり抜け落ちていた
何も覆うものがない
陰すらない今の状況
(なんかッ…っ一気に理性が…ッ!)
見上げる視界を一瞬遮った群青
焦凍が纏っていたその布が顔の横に落ちてきて
背筋がゾクリと奮った
落ちてきた焦凍の香りが
鼻をくすぐって表皮が騒めいていく
光に照らされた白い肌
綺麗な顔にそぐわない筋肉質な腕も胸も
もう色々沸騰して見続ける事すら困難だ。
こんなに…
恥ずかしいものだったっけ…
「あのっ、焦凍…っ。」
もう何処を隠せば良いのかわからず
惑う手は最終的に目を隠す。
隙間から見えるのは
ツイと上がった口角と
煽るように傾げた首
「どうかしたのか?」
わかってるくせに…
言葉だって
声音だって意地悪だ
なのに注がれる視線だけが
こんなにも…
泣きたくなるくらい優しいなんて
頭が、気持ちが追い付かない…。
「ちょっと、少しだけ待ッ…」
近づく気配は鮮明に
ヒタと肌が触れ合った
隠す両手を掴まれて
待ってと懇願する口を薄い唇が塞ぐ
すぐ離れてしまったソレに舌が伝うと
声は一層艶やかに
鼓膜を貫通して脳を振るわせた。
「イイな、その顔…。」
「ひぁ…っあっ…。」
ぶわと立つ
爪先から脳天にかけて
産毛が粟立って行く
耳に吹き込まれた低音と
柔らかな舌が、水音が
淫らな音が直接頭に響いて
捩った体で群青色のもぬけの殻を掴む。
どうにかして目を逸らしたかったの
あまりに明るい光にさらされた焦凍を直視できなくて
意地悪なのに優しい
煽られていると同時に慈しんでくれている
カチリ、秒針の音が一つ
聞こえるはずないのに耳に響いた。