第42章 【深緑色】医療保険~指定難病恋型~
「診断、したんだろ?
保健室前で寝こけてた爆豪を。」
この人…わかって聞いてる
逃がさないって声に滲み出てる。
私の取れる行動は逃げの一手
目の前の厚い胸板に両手をついて押し離す。
話題もそうだけど
それがなくても言える訳がない。
「いくら焦凍でも言えません!
これはプライバシーです!」
私だってわかってる。
焦凍の目的は爆豪くんの病名じゃない。
私をこっちの話題に連れてくることだって。
まんまと乗せられた私は
相当なバカなんだろうか
それとも焦凍の誘導が上手なだけなんだろうか。
かかったと言わんばかりの声が
愉し気に詠う。
「流石だな。」
クンと引かれた髪一筋が
明暗の狭間で動いて見えた。
いつものように遊んでるんだろう
指先に髪を絡めて、梳いてを繰り返して…
私で、遊んでるんだ。
それって
今の私たちの心情そのまんま
「はぁ…。」
髪を引かれるのを感じながら
溜息を一つ
受け取った焦凍はさも楽し気に
笑う吐息を耳元へ吹きかけた。
「物憂げだな、らしくもねぇ。」
スルリと解けた髪は波間に絡め取られ
くしゃり音を立てて彼の手の中へ。
まるで会話の主導権も
握られてしまったかのような気分だ。
(いやまぁ、そうなんだけど…。)
そりゃね
なんとかなるものなら話したいよ私だって。
だって保健室前だよ保健室前
聞こえてない訳ないじゃない
もし
一部始終アレを聞かれてたのだとしたら…
「明日から毎日顔合わせるんだよ?
恥ずかしいどころじゃないよ…。」
あの後
保健室のドアを開いたら
すぐ隣の壁に背を付けて座り込んでいた爆豪くん。
ずっと居たのかそうじゃないのか
聞きたかったけどできなかった。
彼の瞳は閉じていて
そのまま保健室で休ませることになったから…。
聞いてない可能性だってあった
ならば触れないでおこうと思った
なのに起き抜けの第一声が
『お盛んなこったな。』
もう確定だよ
「どこまで聞いてたの?」なんて
聞けるはずもない。
侮蔑かともとれる言葉と
蔑むような視線…。
私は今
地にめり込める程度には凹んでる。
そんな私のどの辺りが面白いのだろうか
引き剥がしたはずの腕は再び巻き付いて
逃がすまいと両腕でホールドされてしまった。