第41章 【深緑色】自己CHIYU
どんだけ時間が経ったか知らねぇが
少なくともハイリが啼き始めてから
ソレが終わるまで
それなりに時間は経ってる筈だ
その間この女がした返事といやぁ
「だからぁ…私は知らないよ~?
爆豪くんの勘違いじゃない?」
こんなんばっかだ。
BGMはハイリの喘声
授業中のこの時間
静かな空間に響き渡るソレは
より現実を突き付けてくる
俺に
この女に
これ以下の状況があんだろうかってくれぇ
胸糞悪ィこの状況下で
女は黒眼を細めたまま笑う。
「ねぇ…爆豪くん――…」
一つ歩みより手が伸びてくる
ヒタと頬に触れた掌に
反射的に身を引いた
「…――ブーメランって言葉、知ってる?」
「あ"?」
冷てぇからじゃねぇ
向けられた微笑みが薄笑いに
見えたからだ。
視界がブレた
脳でも揺れるかのように
日本人形の様だと思ったが
その表情を見続けているうちに変わる女への印象。
あやふやな輪郭が鮮明に形作られていく…。
同じ人形でもこりゃからくり人形だ
なんかのTVで見たゼンマイ式の人型
その口がパカっと無機質に動く
「好きなんだねぇ、ハイリちゃんのコト。」
白い面の皮に描かれた三日月型の瞳
この目が
この口が
こんだけ不気味に見える原因は
俺の思い込みだけって訳じゃねぇだろう
愉し気に薄ら笑う
その顔はヴィランのソレより気味がワリィ
「ンだと…ッ!?」
「声、大きいって~…。」
シィと息を吐く唇に人差し指を当てる
傾いた頭から流れる長髪が
不自然なまでに黒く見える
また動く機械的な唇
「二人に、聞こえちゃうよ~?」
眼だけを動かして
女は壁の向こう側を指した
なんだってんだ…この女は
「ね?」
また一歩
距離が近付くごとに後ずさる
告げる
なんの確証もねぇのに本能が告げる
「それ以上…近寄ンじゃねぇッ!」
「ほらまたぁ…すぐ怒鳴る…。」
この女は危険だと――…。
パシと乾いた音が鳴る
冷てぇ手を振り払う音
女は顔を歪める事もせずクスリと微笑んだ。