第41章 【深緑色】自己CHIYU
口を開くのと同時に
殆ど役目を果たしてなかったシャツが
パサと音を立ててシーツから滑り落ちた
「不安、なの」
初めてなの
この感情の名を不安と呼んで良いのか
嫉妬と呼ぶべきなのか
正直それすらわからないの
「怖くてっ…たまらないの…っ」
こんなに近くにいるのに
あの子と何があったかなんてまだわからないのに
私に触れる焦凍の手の平は、こんなにも優しいのに
ゆっくりと顔を上げた焦凍が小さく笑う
指が目元へ伸びてきて
その背で拭われた雫が彼の指を伝い落ちていった。
そこに映るのは紛れもなく私の心だ
偽りの――真逆の虚像
「全然、大丈夫じゃない…っ」
見下ろす笑みは全然動じてない
むしろ安心したように息をついて
一言だけ
「わかってる…。」
言葉と同時によくできましたと私の頭を撫でた。
まるで身体より心を裸にされたかのよう
何故だかわからない
だけど私が一番素直になれるのは
こうして身を委ねている時だ
また一つ
我儘になる
「じゃ、おしえて…よ。」
「俺はもう少し
こんなお前を見ていてぇ…。」
「なに、それ…。」
ひどい、酷いよ
私は凄く不安でたまらないのに
喜んでるんだもん
目を細めてクスと笑う
余裕たっぷりの笑みはなんだか本当に幸せそうで
気持ちの名の整理もつかないままにその笑みをつねった
「痛ぇ。」
「嘘ばっか、そんなに強くしてませんっ!」
あのね焦凍
今の状況わかってる?
突然出て来た女の子に私は嫉妬してるの
名前も、どんな関係かも教えて貰えなくて
独占欲をむき出しにしているの
不安でたまらないから
こうして愛情を欲しがってるの
こんなごちゃまぜの感情を
なんと言い現わせばいいのかわからなくて
ものすごーく混乱しているの
(なのに何
なんでこんなに幸せそうなの…)
吐息だけの笑い声は
中々消えそうにない
よく笑顔を見せるようになってはくれたけど
こんなに笑い続けるのは珍しいとすら思う
そう言ってしまうには程遠いけど
表情の乏しいこの人にとってこれは
もしかして爆笑なんじゃないだろうか…?