第41章 【深緑色】自己CHIYU
――コワイ
出口どころか道すら見失ってしまいそうで
――コワイ…
この人無しじゃ息の仕方もわからなくなりそうで
――コワイ……
もし、失ってしまったら…考えただけで
―――コワイ―――
満たされる程に覆い被さってくる
愛情を感じれば感じるほどに目の前を塞いでくる
幸福を追い越すように背丈を伸ばすソレこそ
もつれた糸の正体なのだと思う
『恐怖』
断ち切るべきだと
理性が足掻く
きっと雁字搦めになってしまうから
共倒れになってしまうから
いざって時
立ち直れなくなってしまうから
なのに
見透かしたように彼は言う
「一緒に堕ちるか?」
うっすらと弧を描く
いつも涼しげな目は蕩けちゃいそうなくらい柔らかい
頬に添えられた手が
涙を拭うかのように私の目元を撫でた
なんでこんなに好きなんだろう
それは優しい感情のハズなのに
なんでこんなに醜い感情を生んでしまうんだろう
「うん…。」
また一つ唇を寄せる
中和するかのように歯を立てる
鮮血よりも尚赤い
痛々しい痕は私の印
こんなに痛そうなのに
私は治す側の人間なのに
なのにこの赤に安堵する
「一緒が良い…。」
焦凍は、返事の代わりに私の頭を撫でた
それはそれはこちらが目を細めてしまうような
穏やかな笑みで
綺麗に弧を描いた唇が頬に触れて
耳、首筋へと…
私の腰を掴む手に力が込められていく
息はどちらからともなく上がった
「は…ッぁ…っ」
ゆっくりと入ってくる
いつもより
ずっとゆっくりで
まるで楔でも打ち込んでいるかのようで
それが言葉よりもずっと嬉しくて
背が
睫毛が
肩を掴む指先が
歓喜に奮えた
最奥まで到達しても
私を抱き締めたまま動かない
目も合わせることなく
ただ抱きしめられている
(一番近くに焦凍を感じる瞬間だ)
そう思ったら
鼻の奥がツンと痺れて
涙が溢れだした。
雫の数はきっと…思いの数。