第41章 【深緑色】自己CHIYU
いやいやと振られていた頭が
首元に埋まり
絡みついていた手から力が抜けていく
全身をヒクつかせ肩で息をする
これは…
「早かったな…。」
「まって…って、いったのにぃ…」
蕩けきった表情でどんだけ怒ろうが
効果はねぇ
赤くなった顔を両手で覆う
その手が俺へと伸びたかと思うと
ぐらり
視界が反転した
俺を見下ろすハイリの向こうにあんのは
単色の天井だ…
意外にも、理解が一瞬遅れた
(これで、押し倒されたのは二度目か。)
一度目は不可抗力だったが
果たして今回は…
「いいって言ったのは焦凍、だからね?」
見上げた真剣な瞳には不安が少し
冗談めかした言葉に滲む本心は如何ほどか
無言で頷いてやりゃ
ハイリはホッとしたように息を零す
再び伝う舌に小さな身体を抱き締めれば
操られているかのように温度の上がった吐息が
チリと甘い痛みをもたらした
「っ…」
ベージュの背景に漂う湯気は
どっちのモンだろうか
仔猫の様な唸り声が規則的な水音へと変わっていく
今度は鎖骨に立てられた歯に
衝動的に白い肩へとかぶりついた
「ハイリ…」
「ぅ……ん?」
俺の中を打ち鳴らす
この脈は今日
いつもと違うビートを刻む
緩急をつけてドク、ドクリと
内側から打ち震えてるみてぇだ
ハァ、と大きく息をつけど
荒ぶる呼吸は
どうにも抑えようがねぇ
――ちゅ…ちぅっ…
耳のすぐ下で響く水音が
俺の諸々を満たしながら壊していく…
(これは…想像してた以上にやべぇ…)
この行為を誘導したのは
俺自身だ
不安なら同じように刻めばいい
俺はハイリのモンなんだと
好きなだけ刻めばいい
抱きしめ合って
歯を立て合う
互いに飢餓を満たす吸血鬼かのような行為と
それに伴う痛み
生まれて初めて自ら望んだ痛み
もはやこれは性欲じゃねぇ
――食欲だ。
「ずっとね、付けてみたかったの…。」
優しく撫でる俺の首筋には
間違いなくあるんだろう
ハイリのモノだという証が
満足だと言いたげに小さく笑う
笑顔こそ儚げだが
漏れた日差しを受けたその瞳は琥珀色
キラと髪が光り輪を作る
すくめた肩端から
スルリ、紐が滑り落ちた