第41章 【深緑色】自己CHIYU
「待てそうにねぇか?」
いつもより余裕のある焦凍の瞳は
なんだかとても愉しそうだ
追い詰められてた人間が
勝機を見つけた時のような不敵な笑み
ねぇ…
駆け引きできる程
今の私には余裕がないんだよ
引き寄せて触れ合わせた唇は
儚い音を立ててすぐに離された
「保健室だぞ…」
「し…ってる…っ」
いつもと同じ会話だけど
今日は口にする者が違う
抵抗を口にしながら行動が伴ってない
私のネクタイを解きながらクスリと笑う
焦凍のそれは
いつもの私と同じで
なら私はいつも
こんな意地悪な顔をしているんだろうか…
(今なら、衝動のまま…
って気持ちもわかる気がする…。)
引き抜かれたシャツの裾から
大きな手が入って来る
指先で背中の溝をなぞられるだけで
ビクリ、身体の内側が疼いた。
「ぅ、んっ」
いつもなら
この体温だけで安心するのに
――タリナイ
立場逆転の4文字がバラバラに駆け巡る頭には
今も不安しかない
不安に耐えた時間
10分そこそこ
一言零した感情が
躊躇なく零れだす
「ほかの、子を…好きにならないで…っ」
自己中心的な言葉は
自己を治癒するための言葉だ
いつの間にこんなに縛られてたんだろう
私の汚い独占欲に
焦凍少しだけ身を固め
呆れたように眉を下げた
「爆豪が、そんなに大事か?」
「………え?」
意味がわからなかった
脈絡がつかめなくて
ただ分かるのは
今この時だけは
私達の瞳に湛えた色が同じって事だけで
「そんなの、そもそも感情の種類がっ…あっ…」
背筋を撫でていた手がわき腹へと伸びてくる
徐々に上がってきて
身体の距離はもっと縮まって
壁に背を預けてる状態じゃ逃げようがなくて
でも逃げ道があったとしても逃げなかったと思う
この瞳の色に
私は確かに安心したの
触れ合う体温よりも安心したの
「お前に触って良いのは俺だけだ。
爆豪に触らせんじゃねぇ。」
触れる吐息に安堵する
蜘蛛の糸のような言葉に安堵する
「じゃ…」
私達は二人で一人
そう思った事もあったけど多分ちょっと違う
きっと絡まり合ってるの
逃れられない蜘蛛の糸に
縺れ合ったマリオネットのように
片方が手を上げたらつられて手を上げてしまうの
「焦凍も他の子に触られちゃ…だめ。」