第40章 【深緑色】secret cancer
ベッドを挟んで向こう側
手を振り返すハイリを見る男の目は
今の俺とは真逆の色
見た事もねぇほど穏やかだ
(何をどう解釈したらそんな顔が出来んだクソがッ)
どう考えたって無神経でしかねぇこの現状
俺の方が真実に近い所にいる
その確信はあるってのに思い出す
ヴィランの襲撃を受けたあの日
黄昏色の中で聴いた
悲痛な鳴き声と穏やかな声を
(嫌なモン思い出しちまったックソが…ッ)
まるでまた
ここに二人だけの絆があるみてぇで
脳の奥が鈍く痛む
鋭い痛みも伴って
胸ン中のゴム風船ははちきれる寸前だ
曖昧過ぎるこの違和感が痛ぇ
これがただの思い過ごしとも思えねぇという
不確かな確信
ここに居座ったところで
これが解決するとも思えなかった。
放置すりゃいつか爆発し兼ねねぇこの風船に
荒療治、と
針を入れるべく場を立った
「教室に戻る。」
「え」と呟いた細い声
いつもなら構ってやんだろうがよ
今はそれ所じゃねぇ
カーテンをくぐり、ドアをくぐり
今保健室を出たばかりの女に声を掛ける
「オイ…。」
ここで本性晒しやがれクソ女
振り向いたソイツの顔は
ハイリの前にあったモンと変わらず
「人当たりの良い笑み」ってやつだ
「あれぇ爆豪くん?
なぁに?」
舌足らずな言葉と共に
初めて面と向かいあった。
額なんか一ミリも見えねぇほど
厚く切り揃えられた前髪
その下の半月型の瞳
笑いかけているようで
こっちを見てねぇ
どっか遠くを見ているように見える
なんつーか
日本人形を思い出す
温度のねぇその態度は上辺だけの物
それが益々俺の疑念を増幅させんだ
伝わって来る
(俺にゃ興味ねぇってツラだなオイ…。)
別にそこはどうでも良い
やっぱ裏がある
そこは間違いねぇ
本物か偽物か
恐らくただのメギツネであろうその化けの皮を
剥ぎ取ってやる
授業中の廊下は静かなモンだ
静かな言葉でさえこんなに響く
ただ見据えた先
素知らぬ素振りで小首をかしげる女への問い
初めてかけた
まともな言葉
「今朝、目ェ合ったよなァ?」
自分でもわかるくれぇの笑みは
デクをいびる時のモン
敢えて表情に乗せた挑発に
僅かに目を見開いたその女は
その目を三日月型に細め
ゆっくりと口角を上げた。