第40章 【深緑色】secret cancer
いくら目を凝らせど見つからねぇ
俺の気にしすぎか?
目を細め、狭まった視界
胸のど真ん中で
苛立ちという名のゴム風船が膨らんでいく
次第に内側を圧迫していくそれは
不快感以外の何物でもねぇ
まるで見えねぇ何かに
ピタリ、背後に憑かれたような…。
警戒する頭に声が降ってきた
「ね~爆豪くんも何か言ってあげてよ~!」
「あ"? 話しかけんなモブが…。」
「ちょ…っと爆豪くんっ
誰彼構わずモブって言うのは止めよう…ね?」
呆気に取られている女の代わりに
俺を嗜める
ハイリの顔は苦笑に満ちている
会話に乗る?
ンなモン知るかッ
俺ぁ今忙しいんだ
言うなればこれは秒針との勝負
この一言以外俺は言葉を口にしなかった。
ただ気になって
神経尖らせて
だが
いくら探せど見つからねぇ…
「じゃ~私は教室戻るね!」
タイムアップだ。
特になにした訳でもねぇ
精々ハイリの髪を結った
そんくれぇだ。
引っかかった事と言えば
女の去り際に出てきた轟の一言くれぇか
「戻ンのか?」
まるで居て当然と思っているかのような
出て行っちまうのが心外かのような言葉だ。
こうなってくると
イカレてんのはこの舐めプ野郎で
女の方がまともに見えてくる。
「病み上がりだし、長居はしないよぉ~
お大事ね!」
名乗ることすらしなかった女の情報は
俺等と同じ1年って事だけ
目的もなにも見出せねぇまま
明るい声を残し去っていく
「バイバ~イ!」
「うん、ありがとう…。」
女は来た時とは違いカーテンを静かにめくり
音も立てずに布の向こう側へと消えていった。
ヒラと揺れた隙間から手だけが振られ
一足遅れて礼を零したハイリが小さく片手を上げる
「ばいばい…。」
声は小さく
ただ小さく
静かに空気に溶けていった。