第40章 【深緑色】secret cancer
ぽかん開いた口
零れんじゃねぇか
そう言いたくなる程開いた目
覚束ない詫びを零し
まぬけ面を固めたハイリの様子は
『会話について行けてない』
この一言で片付いた
事実
ついて行けてねぇからだ。
「……怖ぇ顔?」
「そぉそぉ!怖かった~…。
私、轟くんのあんな顔初めて見た。」
「初めても何も
今日初めて話した筈だが…。」
「轟くんは有名だから~。」
言葉が重なるほどに零れだす
驚きの中から動揺が
ゆらゆらと揺れた亜麻色は行き場を無くし
膝の上に組まれた両手に落とされた
わかりたくもねぇがわかっちまう
親しげに話すこの空気は
俺にですら違和感満載
今まで轟がどれ程他人に無関心な人間だったか
一番知っているハイリなら
それは更に嵩を増して見えんだろーよ
(それにしてもこの女…
朝と印象が違い過ぎる。)
食い気味に身を乗り出す女と
戸惑いながら身を引く女
見据える目
その上の眉間にいつも以上の皺が寄る
「何か飲み物買ってこようか?」
「あ、いえっ大丈夫です。」
「なんで敬語!?
私も1年だからっっ!」
ハイリを気遣いながら笑顔を向ける
突き飛ばし睨み据えたあの目とは別人みてぇだ
雨の中の遠目だったから俺の見間違いか?
好きな男の前だから繕ってんのか?
もしくは俺の固定概念がそう見せたか…?
「えっ…大人っぽいから先輩かなって…。」
「よく言われるんだ~でも1年だよ~?」
繕うにしては自然すぎる態度
次第に轟には目もくれず
話し相手はハイリだけだとばかりに
距離を詰めていく
容姿の問題じゃねぇ
すでに出来上がっているかのような上下関係
人見知りのガキをあやす様に伸ばした手は
亜麻色の髪を梳き始めた
「フワフワの髪、いいなぁ。
私なんか巻いても午後にはストレート!」
触れた他人の手に
ハイリの肩がぴくりと跳ねる
身を固める様は
言うなれば借りてきた猫
戸惑いながらもじっと伺う瞳がそう思わせた。