第40章 【深緑色】secret cancer
――“個性”とは…主より承りしもの
『ハイリちゃんはここで座っていてね。』
『はい。』
『どうしてハイリちゃんだけすわってるのー?』
――我らが迷わぬ様、お与えくださった翼なのです
『ミス楠梨は見学です。』
『はい。』
『シスター、何故ハイリだけ見学なのでしょうか?』
――“個性”とは主のお導きなのですよ
『楠梨さんは――』
『はい。』
『ハイリ――』
『はい。』
『ねぇ…もしかして“無個性”なの?』
――ジャア ムコセイ ハ?
何故“個性”を隠さなければならないのに
そんな学校へ入れられたのか
今となっては疑問しかない
本当に無個性だったら受け入れられたのかな
事情を知ってる教師に
何も知らされていない生徒
無個性だから哀れまれている
子供の目にはそう映ったんだろうか
小・中と続いた腫物を触る様な扱いは
大人からも子供からも
何一つ温度を感じなかった。
無色透明
無味無臭
そこに人間味なんて感じなかった
だから――――……
「コイツは俺のだ。」
「コイツはモノじゃねぇっ!」
「テメェの方がモノ扱いしてんだろ。」
「あ"? もっぺん言ってみろやッこンッ――…」
「……うるさいよ、二人とも。」
親しんだ匂い
見慣れた色
固い枕に薄いマットレス
そして手触りの悪い掛布団
この場所が自分の逃げ場だった
拠り所だった
目が覚めたらちよちゃんが居て
お菓子をくれて
「…って、リカバリーガールは?」
見慣れたというには些かうるさすぎるこの状況
人が寝てるベッドの隣で大音量の口論を披露するこの二人。
(誤解が解けてもここは治らないのね)
夢見の悪いこの頭で
呆れるなんてことはしない
どれだけ煩くたって
ここには温度しかないから。